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第29回 松江でママチャリ。


ペリカン戸田の遠い夜明け

ペリカン戸田の遠い夜明け sun
クウネル編集部の戸田史です。「いちおう最年少ですが、三十路半ばです」と自己紹介し続けて幾歳月。三十路半ばずいぶん前に卒業したけれど、最年少編集部員からはなかなか卒業できません。ここでは、編集部で(主に)夜な夜な起こる、ヘンな出来事やちょっといい話などをご紹介していきたいと思います。
 

第29回
松江でママチャリ。

今宵のペリカン、自転車に乗って街を疾走しています。

走っているのは水の都・松江。ただいま、この地にてお茶にまつわる取材のまっただなかなのです(どんな記事になるかは、次号を見てのおたのしみ)。

松江に暮らすさまざまな方のご自宅にお邪魔して、あれやこれやとお話をうかがって歩いていた折、松江城のすぐそばにある80代の漆職人ご夫婦のお宅で「このあとは、どこに行かれるの?」と聞かれ、「○○まで歩いて行きます!」とはりきって答えると「歩けないことはないけど大変でしょう。これ、貸してあげるわよ」。お母さんが、使い込まれた赤いママチャリをひっぱりだしてきてくれたのです。ありがたくお借りして、つぎの取材先へ向かいました。

夏のような日ざしのもと、すいすいーと自転車をこぐ。うーん、快適!! 

松江城を囲む堀川や宍道湖など、涼しげな水辺の風景がつぎつぎと目に飛び込んできます。ママチャリで駆け抜けると、ひとときこの街の住人になったような気分。

無事に取材を終えたのは夕暮れ時。ふと思い立って、宍道湖の夕景を見に行くことにしました。湖畔の遊歩道に向かうと、ジョギングをする人、ベンチでおしゃべりしている高校生、みんなが思い思いの時間を過ごしています。茜色に染まったうつくしい水面を見てすっかりテンションがあがり、気づけば、落ちていく夕陽にむかって、ぐんぐんペダルを踏み込んでいました。

はりきって進んだぶん、戻ってこなければならない道のりも長くなる。そんな当然のことに気付いたのは陽が落ちてから。夜の闇が迫るなか、ひぃひぃ言いながら湖畔の道を引き返してきたペリカンなのでした。