第45回 はだかんぼう祭り。
ペリカン戸田の遠い夜明け
第45回
はだかんぼう祭り。
ぽっかーん。今宵のペリカン、口をあんぐり開けて道ばたに立ちつくしています。目の前をゆくのは、自転車に乗った大勢の人々。口笛をふき、歓声をあげながら、びゅんびゅんと走り過ぎていく彼らのほとんどが、裸、もしくは、パンツ一丁のほぼ裸だったのです。
ここはアメリカの北西部にあるポートランド。車社会のこの国にはめずらしく、自転車レーンや専用道が整備された自転車天国として知られる町です。ペリカンが訪ねたのは6月はじめ。初夏を迎えたポートランドではさまざまな自転車イベントが開かれる、とは聞いていたのですが……。
夏のポートランドの日の入りは遅く、夜9時を過ぎてようやく空が夕焼けに染まります。取材を終え、ホテルのそばにあるホールフーズというスーパーマーケットに晩ごはんのお惣菜を買い出しに行ったのは10時前のことでした。ビーツとレンズ豆のサラダやファラフェルを買い込んで、さあ部屋に帰ろうと店の外にでると、近くのストリートが何やら騒がしい。フォトグラファーのNさんと連れ立って声のするほうに駆けていき、冒頭のようなシーンに遭遇したのです。
ネイキッド・バイク・ライドという、はだかんぼうで自転車に乗って、ひと晩中市内を走りまわるこのイベント。言葉だけ聞くと、なんだかイヤラシイワなんて思ってしまいそうですが、さにあらず。およそ5千人がいっせいに駆け抜けていく姿は圧巻で、最初こそ「どーなってるの?」と口あんぐりでしたが、しばらく眺めていると爽快な気分になってきます。大人も子供も、男も女も、太った人も痩せた人も、ハンディキャップのある人も、ボディペイントで派手に装飾した人も、きっぱり裸一貫の人も、みんな本当に楽しげで清々しい。「人ってさ、いろんな体してていいんだよね。なんかうれしいよね」というNさんの言葉に深くうなずいたペリカンでした。このイベント、オレゴン州も「ポートランドの伝統」と認めているんだそうです。