マガジンワールド

第25回 「おとおり」または「ウッドベース」


madros-parts
僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第25回
「おとおり」または「ウッドベース」

「おとおり」または「ウッドベース」

今年のゴールデンウィーク、4年ぶりに宮古島に行きました……。以前、大変お世話になった宮古島の友人と再会を祝し飲み続け三軒目、平良にあるバーというかクラブでのこと……。

島酒(泡盛)を久しぶりに飲み過ぎてしまって……トイレで全く動けなくなってしまいました……。気がつけば一緒に飲んでいたはずの友人達はどこかへ……。僕があまりにトイレから出てこなかったので、勝手に帰ったとおもわれたのでしょうか……いつの間にか、みんないなくなってしまってました……。ミラーボールの光が眼に痛かった午前3時……。

ご存知の方も多いと思いますが、宮古島では「おとおり」というお酒の飲み方があります。親戚や友達、みんなで島酒を飲む時の宮古島特有のコミュニケーションと言いますか。簡単に説明すると、まずピッチャーに泡盛の水割り(ロックやストレートで飲む人もいるかもしれません)を用意します。そして最初に親を決め、親はまずその会の趣旨などを述べみんなに挨拶をします。親から自分のコップの島酒を勢いよく飲み干し、同じコップに島酒を注ぎ、次の人に回します(これを「おとおりを回す」と言うそうです)。回ってきた人はそれをまた勢いよく飲み干し、お礼を述べ空になったコップを親に返します(「おとおりを返す」と言うそうです)。今回、僕は6人で飲んだのでそれで例えると、以上のことを5人分くり返します。最後にもう一度親が飲み終えたら、隣の人と親を交代します。次の親も挨拶の後、再び自分のコップで親として「おとおり」を回します。全員が親を終えたら一周したことになります。6人の「おとおり」だとひとり7杯飲むことになります。人数が多ければその分飲む量は増えるけど、少なくても飲むペースが速くなる。しかも一周で終わるとは限らない。結局、自分のペースで飲めないのでお酒が弱い人は注意しなければなりません。以上が「おとおり」の基本で地域によっては右回しや左回しの意味があったりルールはちょっとずつ違うようです。

マドロスがトイレから動けなくなったのはこの「おとおり」で飲み過ぎたから。お酒が弱いのになぜ「おとおり」をしたのか全く憶えてませんが、理由があるとしたらそこが宮古島だったから……そこで出会った地元の人々に自己紹介がてら「おとおり」をくり返しているうちにわけがわからなくなった……僕がトイレで動けない間、もちろん島の人達は「おとおり」を回し続けていたことでしょう。

「おとおり」または「ウッドベース」

宮古島に初めて来たのは10年前。現在でも日本屈指のダイビングスポットとして人気で、港街特有のどこか不良っぽさも残る平良港の街。美しいこの南の島にはなぜかロカビリーのお店が多いのです。それは現在でも変わらないことのひとつで、ロカビリーなレコード店や洋服店やバーには人の身長くらいの大きなウッドベースがショーウィンドウに置いてある。高校生が学校帰りに寄り道して制服のままプレスリーやストレイキャッツの音楽に合わせてウッドベースの弦を叩いて遊んでいる姿は他の土地ではあまり見られない景色かもしれません。

美しい海や宮古そばも好きだけれど、宮古島に来たんだなぁっていつもおもうのは、お酒の弱い僕にはちょっと辛い「おとおり」という気合いのいるコミュニケーションや、ウッドベースで遊ぶロカビリー好きの若者達のファッションだったりする。宮古島らしさというか、宮古島の暖かさのようなものをそんなところから感じるのです。