マガジンワールド

第27回 真夜中の◯◯者


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第27回
真夜中の◯◯者

お盆を迎えた夏の夜。聞こえてくるのは鈴虫の音や木々が風で揺れる音、遠い海からの潮騒。全く人気のない真っ暗闇の山の中で深夜0時、ひとりぼっちで撮影中です。ここは東京都の八丈島。

月明かりに照らされる島の植物達を撮影しています。懐中電灯を片手に森林に入り、カメラをセットしてシャッターを押し、1時間後にカメラに戻りシャッターを閉じるという作業。たった一回のシャッターが1時間以上の長時間露光なので、5時間いたとしても、たった5カットしか撮影できません。

この待ち時間の長いこと。ついついいろんなことを想像してしまいます。ちょっとでも怖いことを考えようものなら、恐怖は恐怖を呼びます。ガサッと音がすれば周囲を見渡し、「何かうごいた!」と思えばそれは自分の影だったり。でも本当にいたのは野生の‥‥えっ!ゴキブリ? 本当に怖いよ~ヒ~ッ!!!

気分を変えようと、今と全く違う気分の歌を口ずさむべく思いついた曲はユーミンの『恋人はサンタクロース』だった‥‥歌ってみよ。「恋人はさんたくろー‥‥」さむっ。それはそれで怖いっつうの。一端芽生えた恐怖心からはなかなか解放されないもの。今すぐにその場から走り去りたい気持ちをグッとこらえる。まるで肝試しか何かの罰ゲームでもやらされているみたいです。

どうしようもなくなって夜空を見上げた。天の川まで見える満天の星空だ。星座を探し、星を数える。耳元でヤブ蚊が「プ~ン」と飛ぶ音にものすごく腹が立つ。いつの間にか大きくなった恐怖心はどこかへ。そしてこの原稿を書いたり、携帯電話で長電話をして長い待ち時間と小さな恐怖心をやり過ごしてます。

こんな真夜中にひとりで何やってるのだろう‥‥。当然、そう思ってますよ。人から見たらこの状況はただの不審者でしかありませんから。