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第50回 マドロスのスナックの歩き方 其の2


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第50回
マドロスのスナックの歩き方 其の2

行きつけのお店のいつもの仲間と。

それが旅先で出会ったその場限りの付き合いだとしても、スナックで大事なのはコミュニケーションだ。美味しいお酒が飲みたければ、雰囲気のいいバーがあるし、お気に入りの歌を思いっきり歌いたいのならカラオケボックスがある。そのどちらとも違う、お酒と歌うことの間にあるコミュニケーションを楽しむ。それがスナックの担う大きな役割かもしれない。ママに限らず、他のお客さんとのちょっとしたコミュニケーションで、上等なお酒でなくても美味しく飲めるし、下手な歌でもその場がいい雰囲気になったりする。

もちろんアルコールが苦手な人は無理をしてはいけない。
歌いたくなければ歌わなくてもよいが、歌ってみるとより楽しい。
お酒と歌うことの間に生れる何か。
そこにスナックの楽しさがあるのだ。

…と偉そうに書いたけど、実家がスナックを営んでいたのに、大事なことに気がついたのは実は最近のこと。二十歳を過ぎ、お酒を飲んでよくなってからは、当時は元気だった父と駅前の居酒屋でビールを飲み夕飯を食べ、帰りに母のスナックに連れていってもらった思い出がある。

店内では常連客の白髪のおじさんやおばさん連中がカウンターでいつもの一杯を酌み交わしているわけだが、若さ故にお酒はともかく(若い頃はほとんど飲めませんでした)挨拶はおろか、世間話しすらろくにできなかった。おまけにその常連客達の「なんか歌わんね」という、いま思えば若輩者への思いやりと優しさに対し、当時流行っていたブルーハーツの「リンダリンダ」を大声で歌う始末の悪さ(若いから、というだけではないと思いますが)。

田舎街の小さな路地裏に、北島三郎、鳥羽一郎、テレサテン、そしてブルーハーツ、たまにBOØWY みたいな。異様な選曲が成り響いてたと思うと恥ずかしい限りです。NO NEW YORK!

平成25年10月20日
マドロス陽一