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第55回 マドロス陽一の写真便りその5


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第55回
マドロス陽一の写真便りその5

このカットは1ページ大に使用されてもいいように全体がわかる程度、ヒキ(遠ざかって)で撮る。そして一段分原稿が入ってもいいように横位置も撮る。さらに縦に戻しタイトルや見出しの余白を空けてもう一枚。
小さく使用するカットは何を伝えたいのかが明確に解るように一度正面から見て、ヨリ(近寄って)で撮る。その時、大きく使用されることも想定する。
たとえカメラのアングル決めに時間がかかったとしても決して慌てない。本の場合は対抗ページやめくった時の構成、特に掲載されるサイズによってどう撮るのかを判断し、撮影した方があとで組み立てやすい。
いずれも大事なことは企画や編集の意図なので編集者やライターの話をよく理解する。取材相手の言葉も写真に大きく影響することがあるから、現場での新たな発見を見落としてはならない。
スタイリスト、ヘアメイク、それぞれの仕事がひとつの写真となる。俳優やタレントなど被写体にパブリックイメージがある場合はそれを意識する。
有名無名に限らず人物のいい表情は鮮度が大事なので沢山撮っても意味がない。撮影時間の長さに関わらず現場での流れを意識する。
ワンカットで全てを伝えなければならない広告撮影では打ち合わせや事前のロケハン、テスト撮影、美術などあらゆる準備を怠ってはならない。
スタジオでの撮影、自然光での撮影、季節や天候、全ては光の違いによって撮影条件は変わる。どのような条件でも光をよく見ることが基本である。
グラビアやストーリーのあるもの、ファッション、スポーツ、建築、料理、物撮り、インタビュー他、それぞれのジャンルの撮影のセオリーを理解することは大切である。機材選びで写真が変わることを考える。

このようにカメラマンは、かつての経験で知り得たことを頭の隅におき、ひとつの撮影が始まる前に打ち合わせを行う。
編集者から撮影条件ならびに企画や編集意図を聞き、まとめとしてアートディレクターの撮影に関する具体的な指示を待つのだが、先日の打ち合わせで、ああでもないこうでもないと散々話をした結果、出たそれは
「いい写真を撮ってきて下さい。」
という的確な言葉だった。
以来、その言葉が頭から離れません。

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平成26年4月20日
マドロス陽一