マガジンワールド

第51回 マドロス陽一の写真便り


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第51回
マドロス陽一の写真便り

師走。年末進行真っ只中。
12月半ばを過ぎると撮影も落ち着き、
入稿へ向けて暗室で淡々とプリント作業をする日々が続く。
あまりに長い時間作業が続くとそこから逃げ出したくなるが、
締め切りが迫り暗闇からは逃げられない。

写真をはじめて20年ほど。暗室作業もそれだけやってきた。
写真は化学反応だから、撮影後、特別な加工をしない限りは機械的、規則的に作業することが良いプリントを作る条件と言える。同じ動きを繰り返し、身体で覚える作業なのだ。
嫌気がさし逃げ出したい時は、一定の身体の動きに任せて頭では違うことを考えたり、妄想している。
年末進行の今も妄想全開である。
暗闇で妄想…危険な響きだが、現像液の臭いを嗅ぎ、フィルム、印画紙を触っていれば妄想も写真からは離れることは難しい。写真のための妄想は後にアイデアになり次の撮影につながる。

そうやって結局は写真のことばかり考えた一年だった。
来年も写真のことばかり考えられる一年にしたい。

平成25年12月20日
マドロス陽一