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第18回 誓ったからね、無人島で


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第18回
誓ったからね、無人島で

誓ったからね、無人島で

先日、2006年ドイツW杯サッカー日本代表出場メンバーの発表が行われた。賛否両論、ともかく23人の選手が決まった。後は日本の勝利を信じ応援するのみである。W杯開幕のその時が刻々と近づいてきている。

日韓共催で行われた前回のW杯から4年という月日が流れた。当時、日本はベルギー、ロシア、チュニジアの3カ国と予選リーグで闘い、その時の記憶は今でも古びることがない。なかでも第2戦のロシア戦は日本の決勝トーナメント進出をかけた大一番だった。日本は1-0でW杯初勝利。その一戦はクウネルのADオレ様をはじめ、日本代表を応援している人達の多くが、これまでで最高の試合だったと言いきる。
しかし・・・Jリーグ発足時から日本代表を応援し続けてきたマドロスはそんな大事な試合をテレビはおろかラジオですら観戦することが出来なかった。4年前のその歴史的一戦を見逃したことはいまでも悔やんでも悔やみきれない。嗚呼! 思い出しただけでも悔しいっ!

というのもマドロスはその時、ある雑誌のリゾート取材でフィリピン共和国のミニロック島とラゲン島に撮影に行ってました。取材日程が運命のロシア戦の日と重なっていたので、宿泊先のホテルに、衛星放送で日本戦が放送されるかどうかを確認した上での渡航でした。にもかかわらず、ロシア戦のちょうどその夜のこと、取材先のホテルオーナーが「今晩はここから数キロ先の無人島で豪華ディナークルーズを体験していただきます。私達のスペシャルなサービスですので是非撮影して下さい」と言う。同行したサッカーに全く興味のない編集者は「それはいい! 是非、紹介させて下さい」と大喜び。マドロスは正直「なにがスペシャルじゃ! こっちはそれどころじゃないんじゃ! 運命のロシア戦が見れないかも~!」とW杯のことで頭がいっぱいだった。「今晩はサッカーがあるんで、行きたくありません!」なんて言えるはずもなくマドロスは島流しされてしまったのでした。

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僕ら取材班とディナーの給仕係を乗せた小さなボートは月明かりを頼りに暗闇の静かな海を進んで行く。すると引き潮によって海中に浮かんだ直径25メートル程の小さな白い砂浜が現れた。その真ん中には焚き火でアップライトされたテーブルとバーカウンター。僕らが到着するときは完全な無人という気の配りよう、ぽっかり浮かんだ島のテーブルセットだ。頭上には無数の星が輝き、潮騒の音だけが聴こえてくる。裸足で砂の感触を感じながら、コース料理をいただく。「素敵ね~」とワインでほろ酔いの編集者。デザートが終わると給仕係が横一列に並び、ギターを手に現地の民謡を歌ってくれた。波打ち際で聴く女性のボーカルが暗闇の海に響き渡った。

続く素敵なサービス。しかーし! どうしてもW杯が気なる! 観戦にはもう間に合わない・・・時計ばかり見てソワソワ落ち着かない。ずっとロシア戦が気になってディナークルーズなんてどうでもいい。もうそろそろ試合終了の時間だ。意を決し、無線係に「日本ではW杯が行われています。今夜は日本とロシアが試合をしているので、無線で試合結果をホテルに聞いて下さい」と心からお願いした。しばらくして無線係から聞いた言葉は「ジャパン ウォン! ミスターイネイムトゥ ゴール!」だった。「やった! 勝った! 日本が勝ったよ~!」と興奮し波打ち際まで走り出し満天の夜空に向かって叫んだ!「やった~! 勝った~! アレ・・・誰がゴールしたって? ミスターイネイムトゥって誰だ?」

それが稲本選手だってわかるのに時間はかからなかったけど、結局ロシア戦の情報はそれだけだった。翌々日の日本の新聞を見るまで、日本での盛り上がりや試合内容など知るすべもなく、マドロスにとってやりきれない体験だった。 「ホント観たかったなぁロシア戦・・・(後悔)」
そして4年後のW杯、日本戦のある日は絶対に仕事をしないと誓った。

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そして4年が経った。ジーコジャパンのドイツW杯がまもなく開幕する。あの時の悔しさを思い出し、W杯期間中は完全休業することに決めました。 もう絶対、後悔したくはないですからね。マドロス、ドイツに行っちゃいます。現地で日本代表を応援します。4年前のロシア戦以上の感動を体感するために!