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第24回 夏のイメージ


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第24回
夏のイメージ

夏のイメージ

今年の冬は暖かいです。このまま東京では雪を見ることがなさそうです。冬は寒くてマフラーを巻いているくらいが冬らしいし、夏はビーチサンダルを履きたくなるくらい暑いほうが夏らしい。そんな気持ちの今年の冬です。寒さが厳しいところで暮らしている方々にとってはほっと一息の冬かもしれませんが。

先月、再び沖縄にいきました。今回は撮影ではなく、数名の友人達との旅行でした。宿泊先は読谷村にある、昔、米軍ハウスとして使用された建物を利用した海岸に面したペンションでした。みんなでワイワイ飲んだくれの日々。まるで合宿のようでした。沖縄に夏のイメージを持っている人は少なくないと思いますが、実際、冬も暖かく過ごしやすいところです。

だからマドロスは沖縄に行く時、この季節でもどこかで勝手に夏の暑さをイメージして、わくわく、”沖縄の夏”を期待してしまいます。さすがに沖縄が年がら年中暑くないことや、冬は海で泳げない事くらいはわかっていますが、今年は暖かいせいもあって、その自分勝手な期待は大きなものでした。しかし、僕らが那覇空港に到着すると雨こそは降ってないけれど、どんより曇り空。

海から吹く冷たい風に体温を奪われないよう東京から着てきた袖無しのダウンとフリースは脱ぐことが出来ないまま、レンタカーで国道58号線を読谷村に向け北上しました。お腹が減ったので、宜野湾の伊佐浜の交差点付近にある『メキシコ』というタコス屋さんに途中、立ち寄りました。

沖縄に来たら出来るだけ立ち寄りたいタコス屋さん『メキシコ』で一人前3つのタコスを人数分注文しました。タコスにはやはりビールやコーラのような夏の飲みものがよく似合います。「お飲物は?」お店のお姉さんに聞かれ、ひとりの「コーラを下さい」という声に、みんなが「ぼくも」「わたしも」と続きました。

”沖縄の夏”のイメージに勝手に期待しているマドロスですが、じつのところ寒かったので、ほんとうは「何か暖かい飲みもの下さい」と言いたかったけど‥‥言えませんで した。すっかりコーラで身体が冷えてしまいました。

マドロスの自分勝手な期待はどこへやら‥‥ そう思っていたら、国道沿いに建てられた湯煙マークの健康ランドの温泉の看板を見つけました。「あっ温泉だ!」「ひとっ風呂浴びてく?」と車内が盛り上がりました。そして健康ランドにも立ち寄りました。

日本庭園を再現した露天風呂につかる時、ついつい「う゛ぁ~」とおじいちゃんのような声がもれてしまいました。寒さのおかげで本当に”いい湯”だったのです。どんより曇った空を眺め、「ここは沖縄なんだ」と自分に言い聞かせているのは東京から来た僕らだけだったんでしょうね。