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第14回 ギャンブルとは


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第14回
ギャンブルとは

11月、マドロスが所属する事務所、『フォイル』の社員皆で3泊4日の香港取材旅行にいってきました。
3日目の自由行動の日「香港に来たら、マカオでカジノや!」と言い放ったギャンブルが大好きな竹井社長とふたり、マカオのカジノへいった時のお話。九龍の中港碼頭から高速船に乗り、約1時間でマカオに到着。向かったのはマカオで一番歴史のあるホテル『リスボア』のカジノ。

場内は中国全土、世界各地から訪れた観光客でごった返し、勝負に熱くなった人々の歓声とため息、ルーレットの回る音やチップが重なる音が響き渡る。「ブラックジャックでまずは様子見よ」と余裕の竹井社長。カジノの雰囲気に完全にのまれ、オドオドするマドロス。他のゲームにも挑戦しようと場内を歩く。『富貴三公』という名のゲームを竹井社長が見つけた。

チップを賭けた8名の客の手には3枚のカード。その3枚のカードの合計(絵札、J・Q・Kは10で計算)の1の位の数の大小で勝ち負けを決める。トランプの“株”と同じようなルールだ。おもしろいのは客同士で“親”(1名)と“子”(7名まで)に別れ、勝負するところ。(カジノでは通常、カジノ側と客が勝負するゲームがほとんどな為)

「これ面白そうやな」と竹井社長は“子”の空いた席に座り、最少賭け金のチップをテーブルに置いた。“親”はお金持ちそうな青年実業家風な中国人。彼の前に山積みされたチップが“親”のひとり勝ちを表している。“親”は数的理由で勝つと大きいが、その分負けも大きく資金がないとできない。『富貴三公』とは客同士の貧富の差のもとに行われる金持ちと貧乏の勝負なのだ。

竹井社長が賭け始めて数回、まだ勝ちの流れは完全に“親”にあった。それでも竹井社長のカードは不思議と負けていない。マドロスも後ろから竹井社長の“子”のカードに賭ける。(カジノはプレイしていなくても誰かに賭ける事が出来る)「次も勝ちますか?」と心配なマドロス。

「…来たでぇ。俺のカードの引きの強さ、来始めたらスゴいよ」とニヤリ。竹井社長の戦いが始まる!
勝負が進むにつれ、次第にプレイする人数が減っていた。というのも竹井社長が“親”に勝ち続けているので、後ろから賭ける人達に加え、自分でプレイしていた人達も竹井社長に賭け始めたのだ。すでに勝ちの流れは竹井社長に向かっていた。周りの大勢の中国人が広東語でなにやら叫ぶ。きっと「彼に賭けろ! 強いぞ!」と言っているに違いない。8~10人の客が竹井社長以上に多額のチップを置く。

こうなると事実上、“親”と竹井社長の勝負だ。「みんな俺にマージンよこせよ! 俺が勝ってんねん!」と竹井社長が日本語でボヤく。先程まで山積みだった“親”のチップがみるみる減っていき、負けていた“子”、客はここぞとばかりに竹井社長に賭け、勝利する。“子”達に生まれた一体感と連勝による歓喜。結果、竹井社長は青年実業家風親に勝利した。まるで革命、何かの物語のようだった。

マドロスは不思議に思ったことがあった。それは竹井社長の賭けているチップの金額がどんなに勝ち続けていても同じだったこと。結果、竹井社長はそれほど儲かっていないのではないか。あの場にいた多くの客はその何倍ものチップを賭け儲けていた。

なぜ多くの金額を賭け、儲けないのか? 儲かることがギャンブルの”勝ち”だと考えるマドロスは竹井社長にその理由を聞いた。

「ギャンブルは所詮、ゲーム、遊びや。毎週末の競馬も麻雀も一緒。本作って、その本を当てることが俺の本当の勝負や。ギャンブルはその時の為に勝負感を磨いているにすぎんねん。次、ドックレースいこかぁ」竹井社長…かっこよすぎます。でもマドロス、おかげで大儲けしちゃいました。

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