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第70回 マドロス陽一の写真便り その20 写真という病


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第70回
マドロス陽一の写真便りその20
写真という病

9月15日深夜。
ほろ酔いでこの原稿を書いています。
今宵、ある写真家の展示とトークショーに行き、その二次会に参加。写真について語り合い、帰りの終電に揺られながらまた写真のことを考えています。
普段からそのことばかり考えているわけではありませんが、気がつけば写真のことを考えていることが多いなと改めて思いました。

今宵のトークショーは数々のコンペを受賞し将来を有望視されながらも、自身の写真を見失い、一度は撮ることを諦めカメラを置いた写真家のお話でした。
彼は東京を逃げ出し北へ向かい、誰も知らない土地で自身と向き合うことで、もう一度写真を撮る覚悟を決め、この度の機会を得るに至ったそうです。
話の中で心に響いた言葉がありました。
「世間から逃げられても、写真からは逃げられないよ。」
その写真家が逃亡中にかつての恩師に言われた言葉だそうです。
境遇は全く違うけれど、自分にも当てはまることだなと思いました。無意識に目の前の物事を写真と結びつけて考えてしまい、頭の中が写真でいっぱいになってしまう。
それは職業として良いこともありますが、そのことで人を傷つけてしまうことも少なくありません。
もうこれは写真という病なのだと電車で眠りに落ちる前に自覚し、次の瞬間また写真のことを考えていました。
今宵はそんな病にかかってしまった人ばかりの集まりで二次会のお酒が美味しかったです。

平成27年9月18日
マドロス陽一