第26回 スーパーカーのような自転車
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第26回
スーパーカーのような自転車
今から30年程前、マドロスが小学生の頃、スーパーカーが流行りました。スーパーカーを日本語に直訳すると”素晴らしい車”。フェラーリやランボルギーニ、ポルシェなどの海外の車メーカーが独特のデザインと加速性、それ故の豪華絢爛さを各社のブランドイメージを賭けて開発した乗用車、それがスーパーカーだ。当時の子供達、特に男子は街中でたまにスーパーカーを見かけては大騒ぎし、学校で自慢しあった。休み時間には机のうえで”スーパーカー消しゴム”でレースをやって遊んだ。
そしてスーパーカーを気取った自転車も発売された。当時の自転車としては珍しく、車のギアノブと同じ格好をした4段切り替えの変速ギアがついていて、ライトはスーパーカー特有の両目リトラクタブルヘッドライト(収納可能なライトでスイッチを入れるとボディからライトが出て来る)がついていた。とは言え、あくまで自転車なのでスーパーカーにはまったく似てないのですが、それでもこの自転車は当時の男子のあこがれ”スーパーカー風自転車”だった。
先日、ドイツの子供服の雑誌から 「世界各国の写真家から、それぞれの子供時代を思い出させる写真作品を借り、特集を組んでいるのですが、Mr.ナガノの写真を貸して頂けませんか?」という内容の掲載依頼があった。僕はこれまで自分が撮った沢山のネガの中から、お題に合う写真を探した。 すると3年程前に沖縄県の久高島で撮った自転車の写真を見つけた。
”スーパーカー風自転車”の写真。畑仕事をしていたおじいの自転車だったのだが、まだこの自転車があるんだという驚きとなつかしさでその写真を撮ったと思う。 その写真を見て小学生の頃、”スーパーカー風自転車”に乗って放課後の校庭に集まり、野球をしたことや麦茶だと思って持ってきたタッパーの中身が麺つゆだったことを思い出した……。
自転車の写真はその後、ドイツの子供服の雑誌に掲載されました。この写真に写っている自転車がスーパーカー風であることは伝わっただろうか……。 スーパーカーにはほど遠いけど、これは僕たちの思い出の自転車だった。