第46回 岬にて (高いところから失礼します)
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第46回
岬にて (高いところから失礼します)
高所が苦手な人には全く理解されないでしょうが、高いところに登って「わぁ」と驚き、その高ぶった気持ちがゆっくり落ち着いていく感覚が昔から好きだ。それはきっと木登りや教室のベランダにたむろすることに始まっていて、いまでは観光地でタワーと名のつくところがあれば、まずは行ってみようとなるくらいに、気軽に行ける「高いところ」が好きだ。
沖縄本島には学生時代から数えきれないほど何度も訪れているが、滞在する理由はそれぞれで、その度に全く違う沖縄を知る。今年は2度、島の北に位置する国頭村(くにがみそん)に取材で訪れた。島の北側は古くから「やんばる(山原)」と呼ばれ、大自然の「やんばるの森」だけに生息するほとんど飛べない鳥「ヤンバルクイナ」が有名だ。
取材後の空き時間に、島の最北端にある辺戸岬(へどみさき)へ行った。そこはまさに断崖絶壁の「やんばるの高いところ」だ。天気がよければ鹿児島県の与論島(よろんとう)がすごく近くに、当然広大な海も見渡せるが、崖から落ちれれば真っ逆さま。それほど切り立った崖だ。なのに歩道には柵がなく、記念碑が数個あるだけでゴツゴツした岩場が続いている。行こうと思えばギリギリのところまで行くことが出来るが、歩きづらいうえに危険なことは一目瞭然なのであえてそれをする人はいないのだろう。事故に繋がらないように過剰な安全策をとった結果景観を乱し、本来の役割を損なってしまっている観光地(に限らず公共施設なども)が多い中、この辺戸岬は「やんばる」の雄大な自然をそのまま体感することが出来る希少な「高いところ」だ。
海風に吹かれ、いつものように高ぶった気持ちがゆっくり落ち着いてゆく感覚を味わっていた。ただ、この土地で吹く風は暖かい沖縄でも冬は暖をとらなくてはならないほど冷たいとは知らず、長い間ボーッと海を眺めていたら、風邪をひいて翌日から数日寝込んでしまった。
平成24年11月20日
マドロス陽一