第56回 マドロス陽一の写真便りその6
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第56回
マドロス陽一の写真便りその6
現像所から「長野さんの使っているフジフィルムのPRO400が本日で在庫切れとなりました。突然で申し訳ございません。」とお詫びの電話があった。
近年のデジタルカメラの普及に伴い、フィルムで撮影する機会が随分減った。そしてフィルム、ポラロイド、印画紙が次々と生産中止に追い込まれ、業界のフィルム離れが進んでいる。
僕がこれまで10年以上使用してきたコダックのカラー印画紙は一昨年、フィルムは今月上旬に生産中止となり在庫も切れてしまった。現状は選択の余地のないものの、フィルムや印画紙自体がなくなったわけではないので撮影は出来る。ただ8mmや16mmフィルムのように、それらが市場から消えてしまう日もそう遠くはないだろう。
写真は撮り手の眼差しこそ大切だが、フィルムを使用した撮影ではカメラとレンズ、フィルムや印画紙など、それぞれの選択とその掛け合わせが写真のスタイルを左右すると言ってよい。個人的に機材や材料に固執しているわけではないが、そのどれかが使用できなくなれば、テスト撮影をし、もう一度自身の写真を見直す必要がある。
現像所から連絡があった時、ちょうど今号の台所特集の撮影中だった。9日間の長期ロケだったが、この撮影に使ったブローニーフィルムは約60本。途中でそれを切らすことなく、同じフィルム、印画紙でプリントを作り入稿することが出来た。
3回目となる「料理上手の台所」は、結果的に僕が長らく続けてきたスタイルの最後の写真となった。
写真はその特性から、いつでも同じものを何枚でも作れると考えられている。フィルムであろうとデジタルであろうとそれは全くそのとおりだ。がしかし、そうでないとも言える。カメラの開発やアウトプットの多様性でより広がってゆく新しい写真は可能性と希望で満ち溢れているが、その一方でこれまでの経験から得た己の分身とまで思える写真が、この先同じ方法では生み出すことが出来なくなった。かつての写真を忘れたくないと心が訴えている。
「料理上手の台所」のプリントを沢山作った分、暗室にある自動現像機CP31の現像液がかなり汚れていた。
旅立ちの朝、その機械の清掃を済ませ、すっきりした気持ちでヒースロー空港へ向かっている。
偶然にも機内の映画プログラムにベン・スティラー監督/主演の映画「LIFE!」を見つけ鑑賞する。
かつてアメリカで発行された伝説のグラフ誌『LIFE』。
その写真管理室で働く主人公がある伝説のカメラマンによって撮影された25コマ目のネガを探しに旅に出る、写真への愛に満ちたストーリー。
フィルムよ永遠であれ。
平成26年5月20日
マドロス陽一