第67回 マドロス陽一の写真便り その17 現像所、クロマートが閉店した。
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第67回
マドロス陽一の写真便りその17
現像所、クロマートが閉店した。
3月31日をもって西麻布にあった現像所、クロマートが閉店した。
カメラマンになってから15年、お世話になった。出来るだけ早く現像して欲しくて、営業時間が過ぎた深夜に撮影済みのフィルムを「C」のロゴマークが書かれた青い袋に入れてポストへ投函した。プリントをお願いすることもあったし、集荷や仕上がりの配送、各メーカーの感材も全てここで購入していた。技術面の相談もしばしば、〆切りが迫った時はよく無理を言って対応してもらった。僕の写真にとってクロマートは大切なパートナーだった。プロ、アマ問わずクロマートに通ったカメラマンは皆、同じ関係だったと思う。いつも頼りにしていました。
既にデジタルカメラでの撮影に切り替えたカメラマンや最初からそうだったカメラマンは多く、僕も現在はフィルムとデジタルの両方を使い分けています。時間短縮、経費削減でデジタルカメラでの撮影が増え、クロマートに立ち寄ることが年々少なくなっていました。カメラマンとして生業を立てている以上、時代の流れに逆らうことは難しく、各メーカーのフィルムや印画紙の生産中止、カメラ愛好家のフィルム離れも写真のデジタル化に拍車をかけました。
自分の写真を全てをデジタル化することに未だ抵抗を感じていますが、そうも言ってられません。クロマートの閉店を知った時、愛用しているコダック社の印画紙を慌てて確保しました。フィルムや印画紙は食品と同じで使用期限があるので、集める量に限度はありましたが、本年度は続けられるくらい集めることが出来ました。この先、どんなに値上がりしても同じものを使うのか、違うメーカーに変更してフィルム撮影を続けるのか、全てデジタルに切り替えるのか、暗室の冷蔵庫を埋め尽くした印画紙を使い切る頃にまた考えます。
先日、あるアートディレクター(以下AD )に以上のことを話したのですが、「そろそろ(プリント入稿がなくなる)かもねぇ」とそのADが表情ひとつ変えずにタバコを吹かしていたのが印象的でした。僕の写真に限らず、数々の媒体でプリント入稿を大切にしているそのADは感傷的になることもなく、また楽観視することもなく、ただ窓に向かってタバコを吹かしていました。僕らカメラマンは入稿する原稿、すなわち自分の手元にある写真がどうであるかということにとらわれがちですが、ADはそこに加え、写真や絵や文字がどのように印刷されるかを考えているのだと、わかっていたことを帰り道に思いました。ひとりでやらなければならない写真とADや編集者、ライター、プリンティングディレクター、印刷所、現像所などチームとしてできる写真がある。その両方でこれまでも写真を撮ってきたことを思いました。
最後に
クロマートのみなさま、長い間、本当にお世話になりました。
そしてありがとうございました。
これから新しい現像所に向かいます。
出来る限りフィルムで撮影して、印画紙にプリントし、潔く美しい写真を続けていきたいです。
平成27年4月20日
マドロス陽一