第3回 船で通学
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第3回
船で通学
マドロスは小学校、中学校と歩いて通学した。それはそれで楽しかったけど、重い荷物を持たなくてもよい自転車通学にあこがれたり、(ホントは女子とふたり乗りしたかっただけかも)よく親に車で送ってもらっている友達には、「社長」とあだ名をつけたりした。高校で電車とバス通学になった時は、すっかり大人の気分だった。長崎県五島市は久賀(ひさか)島。島の北東、蕨(わらび)町にある蕨小中学校の5名の生徒がスクールバスならぬスクールボートで通学している。そう「船」通学!
マドロス(水夫)としては、なんともうらやましい。秋も終わりかけた頃、そのスクールボートの写真を撮りにいった。スクールボートは登校時と下校時、決まった時間にそれぞれ一便だけ発着する。決まった時間といっても、5名の生徒全員が揃うまで船は出ない。
スクールボートは校庭近くの船着き場から、離れ小島の蕨小島を経由して久賀島南東の五輪(ごりん)地区へと瀬渡しする。スピードはモーターボートぐらいか。結構早く感じる。朝は海面に張りついた霧の中を、夕方は山に沈む夕日を背に、毎日片道約20分のちょっとした船の旅。
途中、本当に小さな蕨小島でひとりだけ降りるのだけど島にはその子の親族だけしか住んでいないという。ということはファミリーアイランドですか?
「ちょっと家で遊ぼうよ」という時はどうするのだろう。船長さんが待っててあげるわけないよなあ。そんなスクールボートを運転する船長さんはどんな時でも子供達に笑顔など振りまかない。ふだんは漁師さんだったりするのだろう。きっと愛想がないわけでもない。
海の男。不器用なだけだ。だからじっと遠くを見ている。海の遠くを。ひとことも会話がなくても気にしないよ。それが海の男だ。と勝手に共感するマドロス。そして五輪地区に着きました。船着き場の向かいに、木造の小さな教会がある。
この島の人たちの多くは、敬虔なクリスチャンで、その小さな教会に、十字を切ってからみんなは家路に着きます。マドロスも「さよならー」と手を振る。船の別れは、いつもさみしいな。