第45回 息もできない
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第45回
息もできない
2009年から2011年の3年間、沖縄八重山諸島の宮古島と能登半島の先にある舳倉島、東京から船で25時間に位置する小笠原の父島にて水中写真を撮っていました。水中写真と言っても熱帯魚や珊瑚、イルカなどを撮っていたわけではなく、深い海の中に潜る人または潜っている人がいる海の風景、ポートレイトでありランドスケープでもある水中の世界を撮影していました。
日本の島に通い風景や祭り、そこに暮らす人々を撮り続けています。特に10代の若者を対象とした写真を『シマノホホエミ』『島々』と題し過去に本にまとめました。島の人々にとって、突然「あなたの写真を撮らせて下さい」とお願いしてくるカメラを持った自分は、ただの不審者ですし断られるのは当たり前のことです。それでも島の人々はいつも親切に接してくれました。
さらに今回はそれが水中写真なので「海に潜っている…あなたの写真を撮らせて下さい」とお願いしなければなりません。泳いでいる写真ではなく、海の中に人がポツンと浮かんでいる写真を撮りたいので「水中眼鏡をかけず、いま着ている服装のまま潜って下さい」と更なる無理をお願いしても、快く引き受けてくれた人々がいました。
小笠原・父島の高校生は制服姿で潜ってくれました。以前『ku:nel』の沖縄特集でもお世話になった池間島、吉進丸の船長はさすが海人。見事な潜りっぷりのスーパーおじいちゃんでした。宮古島の高校生はおもしろがって沖にある八重干瀬(珊瑚の奇麗な場所)まで撮影につきあってくれました。いつも沖まで船を出してくれた池間島、和剛丸の船長はポケットに手を入れ海底を散歩してくれました。その奥さんとフラ仲間が海の中でフラを踊ってくれ、ちょうど島を旅していたアムステルダムの女性もパン屋の格好で潜ってくれました。開店前に自分で素潜りをして捕ってきた魚をその日のメニューとして出しているイタリア料理店『島バル プラビダ』の店長は、海底で昼寝をし、あぐらをかいてリラックス。舳倉島のおばあちゃんは現役の海女さん。畑仕事の格好で潜ってくれましたがその日の漁が気になって仕方がないようでした。その他にも深い海に潜ってくれ撮影にご協力頂いた皆様のおかげで、写真集『BREATHLESS』が完成しました。この場をかりてお礼を言わせて下さい。ありがとうございました。
平成24年9月20日
マドロス陽一