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第47回 旅の絵ハガキで写真を語る


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第47回
旅の絵ハガキで写真を語る

旅の絵ハガキで写真を語る

2013年が始まった。

寒さが増すばかりの関東を離れ沖縄県の八重山に来ている。一月半ばを過ぎても最高気温28度と暖かく、撮影もはかどっている。ただ心残りなことがひとつあって時々思い出す。それは頂いた年賀状の返信をしないまま旅立ってしまったこと。EメールやSNSなど便利な連絡方法はいろいろあるが、こんな時は旅先から絵ハガキを出すのがいいと思った。

絵ハガキはビーチサンダルやTシャツ、シーサーの置物や三線のならんだ観光客の為のお土産屋さんに置いてあるはずだ。職業柄、絵ハガキの写真選びは少なからず慎重になる。普段見ることの少ない絵ハガキの棚。その種類の多さに驚く。探しているのはエメラルドグリーンの海や赤瓦の屋根、ハイビスカスやその島の動物など、生活感あふれる祭事でもよい、誰もが一度は見たことがある共通のイメージのハガキだ。どこにでもあると思い込んでいたそのようなハガキが数店探しても見つからない。殆どがphoto by ~と撮影者の名前がアルファベットで記されウソっぽい赤に染まった夕日やソフトフォーカスで抽象的な花、キャラクターや誰かの詩が合成されたものなど”作家もの”と呼べばよいのか、作為的な写真のハガキだった。あえてそれらを選び楽しめればよいのだがどうにもできなかった。ようやく見つけたハガキはイリオモテヤマネコや石垣島の祭事「マユンガナシ」、竹富島の水牛車が映っているものだった。そこにも「photo by junkō hirai 」とあったが他の”作家もの”とは違い全く無作為な写真の絵ハガキだ。被写体が動物や祭事といった操作できないものだからこそ偶然撮れたのかもしれないが、在るものを在るままに撮影することに成功していて、これこそ探していたイメージの絵ハガキだった。

その写真を見ながら思ったことは、写真を手にした他者が抱くそのひと個人の眼差しだ。無作為な写真故に直接情報として伝わり、同時にそのひと個人の想像を生む。誰でも携帯電話で瞬時に写真が撮れ、アプリを使い作家のような加工もできる。プロならば機材を駆使し、制限無く写真に作為を盛り込むことも出来る。そんな時代にjunkō hiraiのような一見普通の写真が絵ハガキであることが、親切で有り難くも思える。それはメールやSNSと手紙やハガキの関係に似ているかもしれない。なんだか偉そうに新年から写真論を語っているけれど、どんなことであれ伝えるということに正直でありたい。

旅の絵ハガキで写真を語る

平成25年1月19日
マドロス陽一