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第58回 マドロス陽一の写真便りその8


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

http://yoichinagano.com/

 

第58回
マドロス陽一の写真便りその8

来月、写真展をやることになりました。
これまでは日本の離島で撮った作品を著書や写真展などで発表してきましたが、今回は料理の写真展です。
長野陽一料理写真展「大根は4センチくらいの厚さの輪切りにし、」というタイトルです。
『ku:nel』(vol.19)「濃い口もいいけれど…うすくちケンタロウ。」に掲載されている大根の煮物の作り方から引用させて頂きました。

そもそも僕は料理カメラマンではありませんが、『ku:nel』での撮影がきっかけで料理写真を撮ることになりました。
料理写真家でないカメラマンが料理を撮ることの意図を『ku:nel』のアートディレクター•有山さんに昨年末、専門誌『料理写真大全』(玄光社刊)のインタビューで聞くことができました。「『ku:nel』は料理は取り上げるけれど、料理の向こう側に人が見えるということを前提としています。もちろん美味しく見せることも大事ですが、料理を通して見えるもの、その背景にあるものを伝えたいと考えています。そのことを理解し、実行できるカメラマンにお願いしています。」と有山さん。
その言葉を聞き、なるほど…と(まるで他人事のように)深くうなずいてしまいました。これまでの料理写真がどうであれ、『ku:nel』においてのそれは確かな理由があり、またそのような本づくりに参加できることを誇りに思いました。

暗室のネガやプリントの棚を見渡すと、島の写真やポートレイトと同じくらい料理写真があり、同じようにスマホのカメラロールも日常の料理写真であふれています。
そのことから、自分にとって料理写真とはなんなのか? と思うようになりました。そして料理に向ける眼差しが、美味しそうに見せることを大切にしながら、島でポートレイトを撮るときと似ている、と考えるようになりました。料理写真はポートレイトなのだと、料理や人物、その対象をまっすぐ見ながら背景にあるストーリーを意識する。料理写真に限らず、それが自分の写真の基本なのだとあらためて確認できたのです。
10年以上撮り続けてきた山のような料理写真のプリントを床に並べ、額装する写真を選びながらそんなことを考えていますが、お腹が減って仕方ありません。

 
平成26年7月19日
マドロス陽一