第64回 マドロス陽一の写真便り その14 レコードと写真
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第64回
マドロス陽一の写真便りその14
レコードと写真
2015年がはじまりました。今年もよろしくお願いします。
年末、二十数年ぶりにLP盤のレコードを買いました。いまでは大きく感じるLPジャケット。松任谷由実の「PEARL PIERCE」というアルバムですが、レコードではなく歌詞カードに描かれた故・安西水丸さんのイラストが欲しくて手に入れました(音源は持っていました)。でも眺めているうちにレコードが聴きたくなってレコードプレーヤーを探し、オーディオのアンプに接続しました。
上京してから音楽はCD、ここ数年はiPhoneやiPodなどを使って音楽データで聴いています。クリアな音質、なにより膨大な量の音楽をポケットに入れられ、欲しい時に曲を探し買うことも出来る。いつでもどこでも簡単に、そうして音楽を便利に聴いています。
久しぶりにレコードを聴くと懐かしさだけでなく、当たり前になった音楽データとの違いを感じました。そしてそれが写真と似ているなぁと。フィルムカメラで撮るアナログの写真とデジタルカメラで撮るデジタルの写真。その違いに似ているなぁと思ったのです。
現在、雑誌や広告の現場ではデジタルカメラで撮影することがほとんどで、フィルムで撮影しプリントで入稿することは少なくなりました。プロに限らず、写真愛好家たちのフィルム離れが進み、スマートフォンで誰もが写真を撮れるようになったいま、フィルム関連商品の生産は減少する一方です。僕は現在もフィルムを使って撮影しているので「デジタルとフィルムの写真は違いますか?」とよく質問されます。「自分が撮る写真はそんなに変わりません」「フィルムは味わい深くて楽しいです」とその時々適当に答えてますが、正直、全く違うものだと思っています。「それぞれ一長一短。使い方次第」という考え方もありますが、デジタル写真の最先端技術は既にフィルムのそれを凌駕していますし、さらに人間の目は日常にあふれるデジタル写真にすっかり慣れてしまったようなのです。
そう感じたのは、昨年の夏、これまで撮った過去の写真を見返したときのことでした。10年ほど前の印画紙や雑誌などの印刷物と現在のそれらを見比べると、光を発するモニターで見る画像に目が慣れている影響か、印画紙も印刷もコントラストが強く、色鮮やかに整理されたクリアな傾向へ変化しているのがわかりました。情報量の多さや色鮮やかさだけが美しさなのか、目で見ることでなにかを感じるという点では現在のそれはどこか乏しい気がしたのです。
耳で“聴く”ことも同じかもしれません。
33回転でまわるレコードに針を落とし、小さなノイズからはじまり流れだす音楽、その空気感とそこで演奏しているかのような実体感は聴き慣れた音楽データのそれとは明らかに違います。
アナログレコードとフィルムカメラによる印画紙や印刷された写真は似ている。
今年は実家からホコリをかぶったレコードを持って来て、音楽を聴いてみようと思います。
平成27年1月20日
マドロス陽一
『長野陽一の美味しいポートレイト』発売を記念した7回目のイベント「テーブルのうえの美味しい写真」を1月25日15時より、恵比寿の『写真集食堂 めぐたま』にて写真評論家の飯沢耕太郎さんと行います。詳細はHPへ。