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第34回 鹿児島県吐噶喇(トカラ)列島 また悪石島編 「フェリーは駄菓子屋」


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

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第34回
鹿児島県吐噶喇(トカラ)列島 また悪石島編 「フェリーは駄菓子屋」

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鹿児島と奄美大島の間にある12の島からなる吐噶喇(トカラ)列島。北から南へ、口之島、中之島、平島、諏訪之瀬島、悪石島、小宝島、宝島の7つの有人島を週2便ほど(月によって異なる)行き来しているのが島唯一の交通手段であるフェリー「としま」だ。空港がないこの島々ではフェリー「としま」が入港しなければ郵便や食料など、島外からの荷物を受け取る手段がない。まさにライフライン。

年に何度かある台風の季節や海が時化ている日は船が欠航するわけで、その間の人々の行き来はもちろん、島には全く物資が届かなくなる。欠航明けの便のコンテナが荷物でいっぱいになることも珍しくないそうだ。船が欠航したため旅行客が帰れなくなることも珍しいことではない。

たった一隻しかないフェリー「としま」だが、例えば鹿児島港発、悪石島などを経由して奄美大島行きの便が3、4日おきに週に2往復しているとする。フェリー「としま」は、奄美に到着して翌日の出航となるので、最も短い滞在でも行きの船中1泊と、ひとつの島にもう1泊、翌々日の鹿児島港行きの上り便で約半日かけて戻ってくるというほぼ3日の旅程になる。

そして7つの有人島のうち約半数の島にはコンビニのような商店がないと聞いた。実際、悪石島にはジュースの自動販売機が1台と2、3種類のたばことビールが売っている個人宅はあったが商店らしきものはなかった。フェリー「としま」がやすら浜港へ入港すると島民達は仕事の手を一旦休め、男手は着岸と荷下ろしの作業を女手はコンテナを開け荷分けをする。

その間、学校が休みの子供達は船内にある自動販売機のアイスクリームを買いに走る。船の移動時間が長い分、フェリー「としま」のレストランや売店は充実していた。商店がない島の子供達にとって、この船は駄菓子屋のようなものかもしれない。約10分ほどの短い停泊時間のことだけど・・・。島が活気づくのが目に見えてわかる。

いろんなことが大変な分、大切なことがたくさん守られている。そんな風景はなかなか見ることはないだろう。嗚呼、マドロスも船内で5日ぶりのお買い物。駄菓子屋のようなフェリーのアイスクリームを手に悪石島を後にする。なんてことはない100円のアイスクリームがやけにおいしかった。

向かうは宝島。南へ。

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平成21年6月20日
マドロス陽一