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第5回 父と志賀島へドライブ


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僕はカメラマンのマドロス陽一こと長野陽一と申します。この度、5冊目の新刊『長野陽一の美味しいポートレイト』(HeHe) という料理の写真集を出版します。その中にはku:nelで撮り続けてきた料理写真もたくさん掲載されています。それらは美味しさだけではなく、料理を通して取材対象者の暮らしやストーリーを伝える写真たちです。島々のポートレイトを撮るように料理も撮り続けてきました。そして料理写真はポートレイトだと考えました。それを“美味しいポートレイト”と名付けます。ここでは旅した島で見たこと感じたことや、写真の話をしたいと思っています。

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第5回
父と志賀島へドライブ

父と 志賀島へ ドライブ

あいにくの曇り空。マドロス、ほぼ1年ぶりに地元福岡に里帰りしました。そこで今回は福岡県の志賀島(しかのしま)へ、父とふたり、ドライブに出かけたお話。志賀島は神奈川で言うところの江ノ島のような島。志賀島橋で九州とむすばれていて、車でも簡単に遊びにいける。

天明4年1784年に「漢倭奴国王」の金印が発見されるなど、日本の歴史において重要な島だったりする。実家から車で30分とそう遠くない志賀島はマドロスの原体験の島。都市高速から博多湾が見えてくるといろんなことを思い出した。

もう20年以上前の記憶だけど、ラジオのついた赤い懐中電灯をもって父と海釣りに行ったことやはじめて友達だけで行った海水浴でスイカ割りをしたこと、免許取り立ての頃、深夜のバイト上がりにもかかわらず、勢いで夜明け前にドライブに行ったこと、当時聴いていた音楽のこと、着ていた服のこと、はじめてできた彼女とのデートなどなど。我が青春の思い出、志賀島。本当にお世話になりました。

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車中、父との会話は弾まなかった。いつものことなので気にしない。父の話しはアレだとかアノだとか人の名前など固有名詞が出てこない。モノ忘れなのか、

それでも会話ができているのは親子だからか。でもマドロスの写真集の題名が出てこなかったのはちょっとショックだったよ。昨年6月、写真展のオープニングパーティではじめて東京に来て、あんなに喜んでたじゃん!

でも自分もウンとか、へーとか、大丈夫といった答え方しか出来なくて父の年齢をさっきから正確に思い出せないのだから父とそう変わらない。久しぶりに会い、些細なことだけど父の嫌なところが気に触ったりもする。それは運転中の仕草や会話の中でちらちら顔を出すのだが、きっと自分にも似たところがあるからだ。そんなことを考えた。

最初はなんでこんな天気の悪い日に志賀島なんか行くんだとちょっと不満げだった父も荒れた海でも楽しいのか、波打ち際でちょっと笑っていた。 確か今年で70近い父。確実に年をとったね。

カメラを覗いてあらためておもう。ハンドルを握るシワシワの手や増えた白髪を見ていたら、なんだかしんみりしてきたなぁ。 「父さん、そろそろ帰ろう。スナック「ふれあい」(母経営のお店)で飲もう。」帰りの車中、その言葉の後に続く会話はなにもなかった。

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