From Editors No.1953
From Editors
編集部リレー日誌
「たけくらべ」を語る川上未映子さんの、その瞳。
「まず、ちょっと糖分入れてもいい?(笑)」
平日昼過ぎの、都内某喫茶店。お店自慢のケーキが並ぶショーケースを前にしての川上さんの一言で、わたくし新人Kのガチガチの緊張も(2割くらい)吹き飛びました。
今回私が担当したのが、「今こそ、古典」というページ。今年2月刊行の川上未映子さん訳「たけくらべ」(原作・樋口一葉、「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 13巻」収録)が、もうほんっとうに面白くて…。取材日まで読みに読み続けて、その分だけ緊張が高まっていたのでした。
以前「たけくらべ」の原著を読もうとして挫折して…とお話しすると、川上さんも中学生の頃に、同じ経験をしたんだそう。そして川上さんの場合、その後に松浦理恵子さん訳に出合って、「たけくらべ」に心酔。以来、「朗読してテープに吹き込んだ松浦さん訳を流しながら、原著を目で追っていく」ということを「誰からも頼まれてない、完全な趣味」として行ってきたほど、思い入れのある作品とのこと。
そんなふうに、川上さんの“樋口一葉愛” “松浦理恵子愛”を、みなさんご存じ、バツグンのトーク力でもって聞けるのは、「たけくらべ」の魅力を知ったばかりの私にとって、とてもとても贅沢な時間でした。
印象的なのは、古典新訳をしている間の感覚を伺った時。「降り立つって感じだった。そこに行くって感じだった。…体験するって感じだった」そんなご説明に聞き入っていると(川上さんの語り口は、お話を文字に起こせばそのまま記事になるぐらいにわかりやすく、そして絵本を読み聞かせてもらっているような気持ちになるほど、素敵なんです)「Kさんも、翻訳やってみたらいいよ!」と言ってくださったことです。
冗談もたくさん口になさる川上さんですが、その時の瞳は“マジだった”とお見受け。インタビューに来る若造に、ご自分の感じた翻訳体験のすばらしさを、本気で伝えてくださろうとしていたのではないかと思います。それくらい、書く時も、話す時も、真摯に“言葉”と向き合う方なのです。
実は私、真に受けて、近々実際に古典新訳をしてみようと意気込んでいます。「あんた、作家でもなんでもないんだから」という突っ込みが聞こえてくるようですが、そんなふうに意気込んでしまえるくらいに、川上さん訳「たけくらべ」は、そして川上さんご本人のお話は、面白かった。
みなさんにもぜひ、古典名作の世界を味わってほしいです。川上さんの本気の瞳を思い出しながら、そう願って、今回ページを作りました。ananと「たけくらべ」、読んでみてくださいね。みなさん、今こそ、古典です。(KT)