From Editors No.1992
From Editors
編集部リレー日誌
“美食天国”の3つの秘密。
台湾から帰国後、食欲がとどまることを知りません。それは“美食天国・台湾”で、食べる喜びをうーんと知ってしまったから。なぜ、この島にはこれほどの美食が詰まっているのか…? 今回はその謎のカギを握る、取材先で出会った3皿をご紹介。
1皿目は、台湾でも地元の方々が美食を求めて集まる吉林路という一角にある、『徐州府(シュィチョウフー)』の「干貝芋泥鴨」。北京ダックの家庭料理版のような料理です。ホタテ、タロイモ、鴨肉をペーストにしたものを揚げた湯葉で巻き、それをさらにピリ辛の味噌、ネギと一緒に北京ダックの皮に包む。タロイモの甘さと肉のうまみが、それはもうばっちり絡み合うんですよ…。この店は、中国・徐州から移住した人々が、“お母さんの料理”を食べたいと言って通い、賑わった店。そう、台湾には、この土地の風土、食材の影響を受けて少しずつ“台湾風”になっていった、広い中国の様々な場所からやってきた地方料理の店がたくさんあるんです。このルーツの多様さが、美食天国の秘密その1。
2皿目は、『My灶(マイザオ)』というお店でいただいた「西魯肉」(白菜漬けや魚介などのスープ)。台湾ではポピュラーな家庭料理ですが…『My灶』のものは、パイナップルなどのフルーツも加えた秘伝の味。透き通った見た目とは裏腹に、酸味、甘さ、しょっぱさなど、味わいが何層にも重ねっているのです! 古びて、忘れられていきそうな、なんてことない家庭料理をも、アレンジして再提示する…。そうしたことが上手なお店もまた、台湾には多数(“リノベ”上手なんですね)。だからこそ、“台湾料理”は時間とともにやせ細ることがなく、個性がしっかりと生き残っていく。これがすなわち、秘密のその2。
そして、いま台湾の有名人もこぞって通うダイニング&バー「叁和院(サンフーユエン)」でいただいた写真の料理が、最後の一皿。奇をてらった“出落ち”料理などと侮るなかれ! 見た目とは裏腹に、雲のようにふわっふわな生地の中には、ピーナッツのさくさくとした食感を残した、ほどよい甘さのピーナッツ餡が。この「落花生餡の包子」そのものは台湾ではよくある料理ですが、こちらは味のクオリティもしっかり保ちつつ、キャッチーな見た目にしたことで、台湾ロコのお客さんはもちろん、日本を含め海外の旅行客からも激ウケ中。なんでも「“台湾料理”は種類が豊富で、どれもとてもおいしいけれど、たくさんありすぎて、うまく海外に伝わっていない」と感じた若手オーナーが、シェフと相談してビジュアルを含め対外戦略を練ったんだそう。「だからこそ、その魅力をぎゅぎゅっと凝縮した僕の店の料理をきっかけに、“台湾料理”の奥深さを世界に伝えたいんだ」というアツい夢も彼の口から聞けました。こんなふうに、勉強熱心な若い人たちが、台湾の魅力を見つめ直して、能動的に自分たちの将来を模索していること。それこそがきっと最後にして最大の、秘密その3だと思うんです。
奇遇にも、今回の取材中に、台湾では政権交代が。選挙の前後、コーディネーターさんや取材先の店員さんなど、若い方々が熱心に政治について語っていたのがとても印象的です。これからどのように進むかはさておいて、台湾に降り立つとひしひしと感じられる、“さぁ、これからどうする?”という期待と熱意。そのムードが、いまグルメの分野においても、新しい風を吹かせています。“美食天国”はいまなお、生まれ変わり続けているんですね。
ドクドクと脈打ちながら、さらなる進化を見せようとしている台湾、そしてその美食。これから生まれる“秘密その4”は、みなさまの舌で確かめてください。私も必ずやまたすぐに。(TK)