すごい人たちの脳は、やっぱりすごかった。 From Editors No.2042
From Editors
編集部リレー日誌
すごい人たちの脳は、やっぱりすごかった。
テレビを通して、あるいは目の前で、すごい人たちの偉業や活躍を目にしたとき、そんな風に思ったことはありませんか? 今週号の企画「達人のメソッドを、脳科学者が解説。すごい人の脳の使い方」は、脳科学者のお力を借りながら、その疑問に迫るページです。ご登場いただいたのは、「トーク」の世界から小島瑠璃子さん、「スポーツ」の世界から羽根田卓也さん、「棋士」の世界から吉原由香里さん、「作家」の世界から二宮敦人さん。各界の第一人者といえる、4人の脳の使い方とはいかに?
詳しくは本誌をご覧いただきたいのですが、特に印象的だったのは、囲碁の吉原由香里六段の“頭の中”でした。名人は千手先まで読む(!)と言われる囲碁の世界。対局中、いったいどんなことが、どんなふうに頭のなかを駆け巡っているのか? さぞ論理的に、パズルを組み立てるように、思考を慌ただしく巡らていせるにちがいないと予想をしつつ伺うと……吉原六段はきっぱり、「感性で打ちます」。囲碁では、白と黒の碁石が交互に打たれながら、だんだんと盤面が埋まっていきます。吉原六段は、そうして浮かび上がっていく白と黒の“模様”、それを俯瞰からとらえて、「なんとなくやだなぁ」「こっちのほうが落ち着くなぁ」といった感性で、ギリギリの局面を打ち進めていくそうなのです。そしてそれは、他の多くの棋士たちも同じだと思います、とも。
さぁ、このとっても興味深いお話を脳科学の第一人者・林成之先生にお伝え。すると……これが“脳の使い方”として、大、大、大正解だったのです! なんでも、「ここにこう打つと、相手から陣地を奪えるな」「あ、ここがこうなって、自分の陣地が減ってしまう!」という“損得計算”をあまりしてしまうのは、脳の能力発揮のためには、NG。生存競争を勝ち抜いてきた人間の脳の中には「自分を守る!」という自己防衛本能があり、“損得計算”によってこれが強く働き、脳がどんどん保守的に。すると、創造的な思考、囲碁でいえば“会心の一手”のようなものは、生まれなくなってしまうのだそう。そこで活かすべきが、吉原六段の語る「感性」。自分が得する、相手が損する、といった思考を積み重ねるのではなく、目の前に広がる模様を見て、盤面と仲間になるような気持ちで、おさまりのいい一手を探す。そうした感覚に至れたときに、脳がクリエイティブに働き出すということでした。
長々と熱く書き綴ってしまいましたが、実は私、(ちょっぴりですが)囲碁経験者。年末に囲碁AIが人間の棋士たちに60連勝してしまうというニュースがありましたが、これに関して、林先生は「人間が感性を十分に発揮すれば、コンピューターの計算を超えた手を生み出すことはきっとできる」と、囲碁ファンとしてワクワクしてしまうお言葉をくださいました。私たちのまだ知らない“ひらめき”が、脳にはまだ眠っています。達人たちのメソッドを参考にすれば、あなたの脳の“すごい”ところも、ひき出せるかも知れません。(K)