From Editors 編集部こぼれ話
俵屋宗達の「天才」と向き合う。
「ほら、この手の描き方と同じ技法なんです」。そう言って、作家の原田マハさんが指差したのはモナリザの複製画。重ね合わせた手の甲でした。
真夏の京都。取材の合間、老舗喫茶店・フランソア喫茶室で一服していたときのこと。
「手の甲は『スフマート』というぼかしの技法で描かれています。これとそっくりなのが、さっき養源院で見た、俵屋宗達による松葉のぼかし。宗達がダ・ヴィンチの技法を知っていたとは思えませんから、独自に編み出したのでしょうが、面白いというか、不思議というか」
かつてキュレーターとして活躍していた原田さん。江戸時代初期、京都で活躍した絵師、俵屋宗達を天才だと言います。
「宗達の画風は独自のもので、先人の影響を受けているように見えないんです」
三十三間堂の東向いにある、養源院には、俵屋宗達が描いた杉戸絵や襖絵が現存しています。本尊が安置された間の襖に描かれているのが、原田さんを感嘆させた松です。岩の描き方も独自のもので、原田さんは、その色彩と造形に釘付けにされました。
原田さんの解説を聞きながらの取材は、プライベートなギャラリートーク状態。贅沢な時間でした。同時に、美術についての基礎知識があれば、もっと自由に奥深く作品について思いを巡らせることができるんだな、と実感しました。
いま、伊藤若冲が大ブームですが、こんどは、俵屋宗達の「天才」が注目されるかもしれません。宗達ブームになる前に、ゆっくり向き合いたいものです。
(編集や)