植わっているときも、伐った後も。木との上手な付き合い方って? クロワッサン 編集部こぼれ話 No.959
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植わっているときも、伐った後も。木との上手な付き合い方って?
木工作家・須田二郎さんに木の器ができるまでの一部始終を見学させてもらいました。まずは丸太をチェーンソーで縦二つ割りにします、と説明を受け、ワクワクしていると、須田さんが手にとったのはサラダ油のボトル。 ??? それをチェーンソーにトクトクと注ぎ入れるので「そ、それで動くんですか!?」ときけば、「これで動くわけじゃなくて、チェーンの冷却と潤滑のためにチェーンソーオイルというものが必要なんです。でも、食べ物を入れるお皿だからね、ニオイがついたりしたらいやでしょう」。
優しい心遣いに感激しているうちに、チェーンソーがワイルドなうなりをあげます。ごろんと転がった丸太があっという間に真っ二つ。フリーハンドで角を落としていくうちに、あっけないほど簡単にお椀の形に近づいていくのですが、重いチェーンソーに硬い丸太。きっと、かなり力のいる難しい作業のはず。
さて、見事かたちになった器を両手に抱けば、木が含む水分のためか、まだしっとりと冷たい。“木の内側”に触れているのだと思うと不思議な心持ちがしました。
もともと、炭を焼くなど、木こりとして林業に携わった経験のある須田さん。かつては人の暮らしと共存し、バランスよく循環していた日本の里山が、今では一銭にもならないからと、打ち捨てられているのだと話してくれました。
「雑木林の木がそのまま売れるなら、わざわざ皿を作らなくてもいいんですが、そうもいかないので。放置されている木を再生して商品にするのが自分の仕事だと思っています」
最近、須田さんのアトリエに運び込まれる木にはソメイヨシノが増えているそう。ご存知のように、ソメイヨシノはクローンで増える植物。
「たくさん植えられた桜が一斉に寿命を迎える時期なんですよね」
木の器に惹かれて訪ねたアトリエで、思いがけず、木と人間の関わりを深く考えさせられました。
(編集M)
撮影・尾嶝太