65円のクリームボールには昭和の味が詰まっている。 クロワッサン 編集部こぼれ話 No.971
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65円のクリームボールには昭和の味が詰まっている。
「懐かしい味の甘いパン。」で取材した東京・明大前の大英堂製パン店は、昔ながらのたたずまいを残す内外観に加えて、今も対面式販売を続ける、昭和遺産と呼べる店。店を切り盛りする67歳の関利博さんは日曜・祝日をのぞいて、毎朝6時すぎから4kg分の生地をこね、160個、20種類あまりのパンをひとりで作っている。アンパン、クリームパン、カスタードホイップなどに加えて、手作りのポテトサラダやタマゴパン、あるいは焼きそばパンやコロッケパンなど総菜パンも豊富。どれも素朴で優しい味わいだ。とりわけ、僕が注目したのは「クリームボール」。クリームを練り込んだパンを油で揚げたもので、一見すると丸いコロッケのような形状。かぶりつくと、揚げパンならではのカリカリ、サクサクした食感とともに甘いクリームが口のなかに広がり、思わず顔がほころぶ味わいだ。さらに、驚くのがその価格、1個65円(税込)。関さんいわく「小さく丸めたパンにクリームを詰めただけだから」とのことだが、その工程を見たら、もう少し値段を上げてもいいのではと思った。ちなみに大英堂製パン店でいちばん高いのがハンバークパンで160円(税込)。甘いパンも110〜120円ほど。朝から夜まで(20時まで営業)の関さんの仕事ぶりを見るにつけ、機械での大量生産では生まれない”手間賃”を乗せてもいいように思えた。しかし、「こんなご時世でも毎日決まって買いに来てくれるお客さんに、少しでも安く提供したいんだよ。私が食べていかれるだけ売れればいいんだから」と泣かせてくれる。もし近くにお立ち寄りの際は、ぜひ関さんの店で懐かしい味のパンをお買い求めていただければ、担当としてはうれしい限りです。
(編集M)