第103回「オンナにしかできない芸とは?」
第103回「オンナにしかできない芸とは?」
妊活に入る前に芸人として、自分なりに走りきった感じはあっただろう。
芸人さんにはいろんなタイプがいる。しゃべりで勝負する人もいればコント、大喜利、それぞれの得意分野を持つ人もいて。そしてリアクション芸が得意な人もいる。二大巨頭はご存じ、ダチョウ倶楽部さんと出川哲朗さん。
妻も芸人になった頃から、その目指す方向は決まっていたようだ。デビューして間もない頃に、ガレッジセールがメインの深夜番組で、「日本海」という名前で、凶暴な女達とハンドバッグで殴り合うコーナーがあり、そこで彼女の知名度はかなり上がった。
その後、僕も度肝を抜かれたのが、ダウンタウンさんの「ガキツカ」で、サウナにおっさんという設定? で上半身裸で入ってくる。これを観て僕は爆笑した。とんでもない女芸人が出てきたなと。
僕と結婚してからもブレることなく、夢であった「お笑いウルトラクイズ」に出場。逆バンジーで大空に放り投げられたあとに、服が破れ、ブラジャーとパンティーだけになってリアクションするという人妻の姿に、そこにいた出演者全員が大爆笑。芸人になって妻の夢が叶った瞬間である。
その後、芸人ではなく、女性としての大きな経験をする。2008年と2010年に二度の妊娠。そして流産。その経験を経て、一度、母親になりたいという気持ちを抑えて、芸人として走りきると決め、少しでもリスペクトするダチョウさん、出川さんに近づくために、イッテQを始め、多数の番組で体を張ってリアクションを取ってきた。
正直、僕は妻の仕事をスタントマンだと思ってるところもある。
そして24時間テレビのマラソンと、映画「福福荘の福ちゃん」の主演、坊主でおっさん役を演じきると言う仕事を成し遂げ、悔いを残すことなく妊活休業に入ったのである。
映画「福福荘の福ちゃん」公開の時にはプロモーションで仕事をすると約束はしていたものの、実際、この休業で、事実上の引退になるのではないかと思っていた。
もし子供が出来なければ、そのことも発表し、芸人に戻るのだろうが、もし赤ちゃんを授かることが出来たら……。妻は、もう戻らないんじゃないかと思っていたし、自分でもそんなこともつぶやいていた。
たまに思う。妻は、女性である前に芸人なのか? 芸人である前に女性なのか? と。
イッテQの最後の収録で、出川さんが今まで言いたくて言えなかった思いを打ち明け、リアクション芸人としてお褒めの言葉をいただき、家に帰ってきて、僕に泣きながらその喜びを伝えていた妻。
もうこれで最後。思い残すこともないんじゃないかと思っていた。だけど、妊活休業に入って数日後、妻は驚くことを僕に言った。その言葉とは
「もし赤ちゃんを授かることが出来たら、ヘルメットカメラをつけて出産したいんだよね」
ヘルメットカメラ。それはリアクション芸人の命。ヘルメットに小型カメラがついているのを見たことはないだろうか? バンジージャンプなどする時に、ヘルメットについている小型カメラ。たぶんまっとうな仕事をしていればほとんど身につけることのない品である。
そのヘルメットカメラをつけて出産したいと言い出した妻。僕が「いや、俺、カメラ回すから」というと「それじゃダメなんだよ。ヘルメットカメラが大事なんだよ」と熱く語り出す。そんな人今まで見たことない。子供を産もうとする人が小型カメラのついたヘルメットかぶってるんですよ。
僕が「なんで、そこまでやりたいの?」と聞くと、妻は答えた。
「これだけは出川さんにもダチョウさんにも出来ないから」
やはり妻は女性である前に芸人なのか?
もしも赤ちゃんを授かることが出来て、いざ出産するとなったとき。妻は本当にヘルメットカメラをかぶるという決断をするのか?
いざ、その日が近づいてきたら、女性が勝って、そんなことやめようと言うかもしれない。
どちらの選択肢を選んでも、僕はいいと思うし、どちらを取っても素敵だなと思う。
ただ、本当にヘルメットカメラをかぶるときには、先生にお願いするのは、僕の役目らしいが。