マガジンワールド

「ブス恋♥妻のダメ出しに感謝」 Vol.160

鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第160回「妻のダメ出しに感謝」

 
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[ヤマザキマリの場合]
やまざき・まり/漫画家。イタリア在住。『テルマエ・ロマエ』は世界8カ国で翻訳。


妻は人の好き嫌いがハッキリしています。

生理的な好き嫌いもあるけど、テレビを見ていての態度とかはもちろん、実際に仕事した時の気持ち、知人やスタッフさんから聞いたタレントさんの評判などから、その人に対する気持ちがハッキリしていきます。

僕はその人が嫌いだとしても、仕事するし、食事に付き合うこともある。笑顔で接する。妻は真逆で、仮に食事に嫌いな人が一緒にいたら顔に出てしまうタイプ。一度「嫌い」となるととことん徹底しているから、そこは羨ましくもある。

僕が家で時折仕事の文句を言ったりして、その人が苦手な人だったりすると、妻は「だったらその人と仕事しなきゃいいのに」と言う。「まあ、そうなんだけどさ」と言い返すと、その言い合いはループになり、答えは出ない。

妻は一度腹が立った人への気持ちが覆ることがないし、行動がハッキリする。男らしいってこういうことを言うのかもしれない。

10年ほど前に僕がある仕事でかなりのノイローゼ状態になってしまったことがある。その時に、妻がその相手のことを殴りに行こうとしていたことをあとで知り、驚いたことがある。

もし実行していたら大問題になっただろうし、やる気度は100%だったようだ。だけど僕の気持ちがリカバーしたので、行かずにすんだらしい。そういう考え方の妻なのだ。男らしいし、はっきりしすぎている。

僕が初監督をした映画『ラブ×ドック』の撮影は順調には行っていたが、まあそれなりのトラブルも起こる。だが、無事に最終日までたどり着いた。

その時に、あるスタッフさんといろんな会話の流れから、その人が言った言葉に僕は腹を立てた。今思えば会話の流れもあった。その映画とはまったく関係ないが、勝手に自分の中でほかのことと繋がってしまい、温度が上がってしまった。スイッチが入ってしまった。

その場で帰ろうかと何度も考えた。だけど、最終日だしと思って、最後まで現場で撮影した。

翌日、自分の中で気持ちがおさまらずに、ブログに書いてしまった。その相手の名前は書いてないが、本人が見たら傷つくだろうし、まわりのスタッフも気づくだろう。要は僕はそれくらい傷ついてるのだということをアピールしたくてブログに書いた。

その日。妻がブログを見て僕に言ってきた。「あのブログは良くないよ」と。「ネガティブなことをブログに書くのは良くない」と。僕は妻に説明した。僕が現場でどういう気持ちになったのか? そしてどんな思いでブログに書いたのか?を。

妻は冷静に話を聞いた。そして言った。「わかるよ。すごくわかるよ」と。

でも、僕のブログを楽しみに見てくれている人がいて、僕がそのことを書いたことにどんな正義を持とうと、そのブログを見て傷つく人がいる。どんなに怒っても、ブログで誰かを傷つけてはいけないのではないか?というのが妻の考え方。わかる。妻の考え方もわかる。

いつもならここで引き下がるが、今回だけは主張した。

僕はこの気持ちをブログに書かなければ処理出来なかったのだ。すると妻は言った「その場で帰ろうかと悩んだくらい腹が立ったなら、そのあとどれだけ揉めようと、帰るべきだったと思う。ブログに書くのは格好悪い。帰った方が良かった」と。

あまりに極論すぎる意見。だけど、極論だけど妻の考え方の方が正論だと思う。帰ろうと思うくらい腹が立っているなら、その場で帰って、あとで問題になって、大揉めして、とんでもないことになるかもしれないが、それと天秤にかけるくらいの気持ちならば、帰った方が良かったと。あとでブログに書いて誰かを傷つけることは男らしくないということなのだろう。

それを聞いて「いや、それ極論すぎるでしょ」と言って部屋を出たが、ドキドキしている自分がいた。そして妻だったらきっとそうしていたに違いないと思った。

今、あの撮影最終日のことを冷静に振り返ってみると、自分自身のその日のテンションとか色んな思いがあって、相手の言葉に勝手に傷ついたところもあるし、その場で怒っても怒られても、まず徹底的に話し合うべきだったなと反省している。相手の方にも申し訳なかったなと思う。

45歳になり、子供も授かり、僕は逆に自分で仕事の仕方が攻撃的になったと思っている。だけど、ブログで書いたことは確かに攻撃的とはまた違う、ズルい攻撃性かもしれない。

将来、息子にこのことを話した時に、息子はどう思うか? 格好いいとは思わないだろう。

だから、今回本当に思った。攻撃的な男になるなら、格好いい攻撃を出来る男になろうと。もしそのあと負けたとしても。

妻よ、ありがとう。


【今回の気づき】

自分の行動って、どっか自分で言い訳を作っている



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!