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「ブス恋♥奪い愛、冬」 Vol.154

鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第154回「奪い愛、冬」

 
イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


今年の1月から久々に連続ドラマの脚本を書かせていただきました。連続ドラマの「脚本」を書くのはこれが3作目。2002年のフジテレビにて香取慎吾君主演の『人にやさしく』。2011年のTBSにて、堀北真希さん主演の『生まれる。』。この2作。

僕は放送作家でありバラエティーを考えるお仕事がメインなので、連続ドラマをやると非常にスケジュールが厳しくなります。その中で書かせて貰った過去二作、『人にやさしく』は当時29歳だった僕なりのメッセージを込めた前向きな青春ストーリーで、『生まれる。』の方は51歳の母親が高年齢出産をする物語。これは僕の妻が二度目の流産をした経験から、子供を授かることは奇跡だと感じるようになり、このテーマに挑みました。どちらも、そのときの自分が伝えたいことを言っている。自分に近いドラマなんです。

で、昨年の夏、育児休暇も終わる頃にテレビ朝日さんから今回のドラマオファー。テーマが「ドロドロ恋愛」。僕は笑いました。だってね、僕は一応、いい夫婦の賞とか貰ってるんですよ。そんな僕にドロドロ恋愛劇。なぜ僕にオファーしてきたかというと、僕なりにドロドロ恋愛の映画とかマンガとか結構見ていて、以前、そのプロデューサーとそんな話をしたことあったんですよ。だから僕にオファーが来たという。

そこでまずはタイトルから入りまして。すぐに思いついたのが「奪い愛、冬」。ダジャレじゃねえかと思うかもしれませんが、やはり一回聞いて覚えられる内容であることが大事。

そして内容は、倉科カナさん演じる光という女性と三浦翔平君演じる康太は婚約直前のカップル。が、そんな光の前に、かつて死ぬほど愛して突如消えてしまった元彼、大谷亮平君演じる信が現れる。しかも信には水野美紀さん演じる蘭というかなりクレイジーな奥さんがいた。光と信が惹かれあい、それに気づく蘭が激しく妨害し、婚約者、康太は嫉妬でどんどん狂っていくという話。

最初はドロドロしながらもキュンとするというキャッチコピーだったのですが、視聴者から「どこがキュンとすんだよ」「どっちかって言うとラブホラーだろ」と指摘を受けながらもネットでかなりバズりまして。放送中はTwitterを中心にお祭り状態に。特に第三話で、信と光がキスしようとすると、その部屋のクローゼットから妻の蘭が「ここにいるよ~」と言って飛び出てくるシーンを物まねする人が続々出てきまして。とある番組で星野源さんまでもが毎回見てると真似までしてくれました。

物語は終盤に行けば行くほど、ドロドロの渦が濃くなっていくんですが、正直、かなりツッコんだり笑いながら見られるようになっています。

最初、うちの妻にこの物語を説明したら「子育てしながらどんな物語書いてんだよ」とツッコまれました。そして部屋で脚本を書いていると、息子、笑福が僕の部屋にニヤニヤしながら入ってきます。笑福は僕がパソコンで作業しているときに僕の膝に座って僕がワープロを打つ姿を見るのが好きなんです。この「奪い愛、冬」を書いてる時にも、僕は笑福を膝に乗せながらドロドロとしたシーンを書いた事も何回もありました。

ドラマも終盤に近づき、最終回の台本を書き上げなければいけない日。妻が仕事で帰りが遅くなると電話が。妻が帰ってきたら、笑福は妻と寝るので、僕は台本を書こうと思っていたのです。だけど、妻が遅くなると言うので、僕が寝かせることに。とりあえず早く寝かしつけて、台本を書くというのが僕のミッション。

ですが、困ったことに、笑福はとりあえずは寝ます。寝てくれるんですが、僕が離れようとすると、すぐにパっと目を覚まし「ママ~~」と言って泣きます。すると僕は「まだ、ママ帰ってきてないんだよ~」と言ってベッドに戻り、笑福の横に寝て抱きしめる。すると笑福は健やかな寝息をたてて寝始める。早く台本を書かないと待っているスタッフがいる。なので、今度は本格的に深い眠りについたなと思い離れると、また目を開けて「ママ~」と叫ぶ。この繰り返し。結局離れることを許してくれず。台本を書かなきゃと焦る僕でしたが、寝ている笑福が、まるで妻の胸に顔を埋めるように僕の胸に顔をうずめて、寝顔で笑顔を見せた瞬間、なんでしょう、今まではキュンとはしましたが、キュンを超えて、母性が目覚めた気がしたんです。お母さんになったというか。母性ってこれかと見えた気がしたんです。

それが嬉しくてね。僕の母性が目覚めてすぐに、妻が帰ってきました。そこで妻がベッドに入り笑福と一緒に寝る。僕は急いでパソコンに向かって脚本を書く。母性が目覚めた僕は、すぐに略奪愛の物語の結末を書く。

過去二作のドラマは非常に自分に近い物語。だけど今度は真逆にある物語。だけど遠くにあるから客観的に楽しめて書ける物もある。今回のこの「奪い愛、冬」は笑福が生まれ、育児で一年休み、家族にどっぷり浸かったからこそ、逆に思い切り書けたんじゃないかと思う。

母性が目覚めた僕は、おかげで、とてもいい結末を書くことが出来た。真ん中を歩くと右も左も見えるけど、思いっきり右を歩くから、そこから沢山の左も見える。いつも歩いてた真ん中も違って見える。子供が出来ると守りに入りおもしろいものが作れなくなるなんて人がいるが、あれは嘘だ。言い訳だ。

家族のおかげで、ドロドロ不倫が書けました。ありがとう。妻と息子よ。


【今回の気づき】

家族に浸れば、別の景色が客観的によ~く見える



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!