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第87回「とりかえしのつかない愛し方」

ブスの瞳に恋してる
 
イラスト/ヤマザキマリ
イラスト/ヤマザキマリ
 
第87回「とりかえしのつかない愛し方」

2014年3月15日、ブログであることを発表しました。実は二年間、あることを内緒にしていたのです。
 
2011年12月。結婚10年目となったこの年の冬、僕は妻への「お返し」としてあるものをプレゼントしようと思いました(「お返し」の意味は『ブス恋』第1巻をご覧ください)。それは、妻の名前。
 
結婚10年を記念いたしまして、妻の名前「美幸」を背中に入れようと思ったのです。そうです。妻の名前をタトゥーで入れようと思ったんです。しかも妻に内緒です。もちろん体にタトゥーなんか入れたことないですよ。憧れたこともないです。どちらかといえば反対派。でも、なんだろう。体に刻みたいなと思ったんです。親からもらった体に何してるんだ! と言う方もいるでしょう。でも親から貰った体だからこそ、その体に覚悟を決めて入れたいと思ったんです。
 
なんかね、今から死ぬこと考えるなと思うかもしれませんが、僕がいつか死んだ時に、妻が僕の体を見て、背中にあるタトゥーを見て優しくなでて、色んなことを思い出すきっかけになってくれたらいいなとか、そんなことまで思ったりして。
 
でね、クリスマスに見せようと思い、その一週間くらい前に、知り合いの知り合いのプロの人に頼み、入れて貰うことにしました。
 
明らかに元ヤンキー風のそのプロの方。ドキドキしながら、タトゥー豆知識を色々聞きました。「背中に入れるのは痛いのか?」→「まあまあ痛い」、「男と女では差があるのか?」→「男の方が圧倒的に痛がる」なんてことを聞き、豆知識を聞かなきゃ良かったと後悔。
 
ちなみに、そのプロの方の所に来た一番変な客の話。カップルで来たらしく、女性が男性を連れて来た。依頼はなんと「私の彼のアレに私の名前を入れてください」と衝撃オーダー。
 
なんと彼は浮気をしてしまったらしく、怒った彼女が、二度と浮気出来ないようにと、彼のあれ(詳しくは竿の部分)にアルファベットで彼女の名前をタトゥーで入れることになってしまったのだとか。彼のアレがギンギンなエキサイト状態じゃないと入れられないため、彼女と彼がトイレに行き、大きくした状態でタトゥーを入れ、痛みで縮んできたらまた、トイレに行く。この作業の繰り返しで無事入れ終わったらしい。
 
世の中には、すごいカップルがいるもんだなんて、そんな話で笑ってごまかしていたのもつかの間、「サイズ、決めましょうか」とプロに言われる。文字のサイズです。「美幸」の二文字。本当は一文字500円玉くらいのサイズにしようと思ったのですが、プロに「なんか奥さんの名前入れるのにあんまり小さいと格好悪いですよ」と言われ、想像より大きいサイズ。一文字、タバコの箱くらいになってしまいました。
 
ソファーに寝転がって入れて貰うわけですが、正直、痛かったな。振動が体に来る。だけどラッキーなことに、僕は乾燥肌で、インクが体にスルスルと入っていったらしい。今まで乾燥肌がやっかいだとしか思ったことないけど、生まれて初めて感謝。
 
入れ始めてから入れてる時はね、痛いんですよ。痛いんですけど、その痛みも、背中に妻の名前を入れてるんだと思うと、痛いのと同時になんだか感慨深いものがあり。結婚した時からこの10年間の色んな思い出がよみがえってきて、それとともに名前が体に入っていく気がして。痛いのに感動してしまったというか。3時間くらいで完成。黒い文字で「美幸」。うん、なんか渋い。二人一緒になってる感、半端なかったというか。
 
本当は入れてから一週間、内緒にして、クリスマスに見せようとしたんです。でもね、家に帰ると妻が「おかえりー。むーちゃん」と激しく抱きついてきまして、その日に限ってやたら背中を抱くんです。「痛い、痛い」とギブアップ。妻に言ってしまいました。背中に「美幸」と入れたことを。妻は超驚いていましたが、僕の背中に入った名前を見ながら「いつまでも見ていられる」と言い、誉めてくれました。その言葉、嬉しかったな。
 
隠すことでもないと思い、周りには言っていましたが、CMとか色んな都合でブログやブス恋で言うのはダメだとうちのスタッフに言われて言ってませんでしたが、色んな都合がクリアになったため、2014年3月に発表したわけです。
 
発表というほどのものでもないと思ってたんだけど、結果、ブログやネットで賛否両論色んな意見が飛び交いました。
 
僕の想像以上に厳しい意見もありました。そうか、世の中はタトゥーに対して、まだこんだけ厳しいのだと思ったりして。正直、少々ヘコんでいるところに、一通のメールが。それはリリー・フランキーさんでした。リリーさんは僕が背中に妻の名前を入れたことに感銘を受けたと。そして最後にこの一言「とりかえしのつかないことは美しいですよ」。
 
本当にそうだね。色んな人の意見で「離婚したらどうするんですか?」と書いてあった。離婚すること考えながら結婚するんだったらしないほうがいい。うん、そうだ。とりかえしのつかない愛し方をいくつ出来るか? 人生一回。これからもとりかえしのつかない愛し方、していきたいな。


今回の格言
周りの意見に振り回されるような愛は愛ではない
愛する人の名前をタトゥーで入れるとはすごい愛し方。想像しただけで痛そうだけど、リリーさんの言うように「とりかえしのつかないことは美しい」のでしょう。「とりかえしのつかない」話は単行本『ブスの瞳に恋してる』シリーズ(1~4)にも!



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!