マガジンワールド

「ブス恋♥叱れない!」 Vol.177

鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第177回「叱れない!」

 
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[ヤマザキマリの場合]
やまざき・まり/漫画家。イタリア在住。『テルマエ・ロマエ』は世界8カ国で翻訳。


ある日の夕方、息子、笑福を保育園に迎えに行った帰りにスーパーに寄りました。その日にそこで、買いたい食材があった。

笑福は、2歳9ヶ月。走り回ります。

その週に、妻が一緒に買い物に行き、笑福の手を引っ張ったことが原因で、「痛い、痛い」と大泣きして大変なことになりました。

スーパーに行くと笑福は走り回ります。しばらくは、人に迷惑かけなきゃいいかと思い、放っておきましたが、いっこうにやめる気配はありません。僕が野菜を見ていると、一人走っていき出口に近づいていきました。

僕が走って近づいていくと、笑福は走って逃げます。スーパーの野菜に身を隠して、僕を惑わせます。

なんとか笑福を捕まえる。ちょっと息切れる45歳。このとき、また手を引っ張りすぎると「痛い、痛い」となると大変なので、優しく自分の近くに引っ張る。カートに乗せようとすると、とにかく嫌がる。

ちょっと乗せても自分で出ようとするので、危ない。

笑福に「あっちに出たらダメでしょ。危ないでしょ」と言うと、もう、子供は芸人と一緒。

それをフリだと認識して、笑福を放すと、また出口に近づいていくので、選んでいた小松菜を一度置いて、笑福のところに走っていく。小松菜一個、なかなか選ばせてくれない。

すると今度は、お肉のコーナーに近づいていく。お肉をラップの上から押していく。お肉を指でギュッギュッとやっていく。

ここで自分の昔の思い出がフラッシュバック。「俺もやってたーーー」と。そんでお母さんに怒られたーー。

子供あるあるだとは分かっているけど、お肉に被害が及んではいけないので、笑福の手を止める。

再び小松菜選びに戻る。小松菜から次の食材に進めない。今度は、ヨーグルトの置いてあるコーナーに走っていく。なぜヨーグルトにひかれているのかわからないが、興味津々。持ってじっと見つめている。

すると今度は、ヨーグルトのあとに、LG21を手に持った。ドリンクです。それを僕のところに持ってきて、買い物かごに入れようとする。

「ありがとう、笑福、持ってきてくれるのはありがたいんだけど、今日は、これはいらないんだな」

LG21、体にいいと評判です。味もおいしい。だけど、この日、買う予定はないもの。だから僕はそれを元の場所に戻しました。

すると、笑福、再びLG21を持ち、僕の顔を見てニコニコとして、いきなり「エイ!!」と投げてしまったのです。LG21。

ラッキーなことに、破損したりするようなことはなかったですが、転がっていくLG21。さすがにもう一度同じところに戻すのに罪悪感を覚えて、自分のかごに入れました。

笑福に「ダメでしょ」と注意すると、笑福、もう一度、ヨーグルトコーナーに走っていき、LG21を取り、「エイ!!」と投げてしまいました。さっきよりも強く。

激しく床に叩きつけられたLG21ですが、ラッキーなことに破損はしてない。僕はそれを取り、かごに入れました。買う予定のなかったLG21が二本。

いいんですよ。体にいいし、おいしいし。

僕が困ってる姿もおもしろくて、笑福は、僕がやっちゃダメだと言うことをやっていく。

野菜選びがなかなか進行しない。さすがに笑福の目を見て厳しく注意。モノを投げちゃダメなことを厳しい口調で目を見て言ったつもりです。ただ、本当ならもっと厳しく注意しなきゃいけないのかもしれません。

でも、そのとき、ここで考えてしまいました。ここで、もし号泣してしまったらと。号泣して、言うこときかなくなったら、買い物はしていられなくなる、と。

だから、その注意も、7割くらいで止めてしまったと思います。

くれぐれも、厳しく言うのが出来ないからじゃないんです。

この状況で、泣かれて面倒なことになったらと思ってしまったのです。

このことをブログで軽く書いたら。共感する人。僕が注意しなかったことに、注意する人。まっぷたつに割れまして。

スーパーの外まで連れていき、とにかく徹底的に注意するというお母さんも結構いました。確かに、たまにそういうお母さんを見ますね。

正直、僕はその日、買い物をしたらなるべく早く家に帰って仕事しなきゃいけなかった。そのことも考えてしまっていた。

現実と理想と。その中で戸惑いながらも、翌日朝、冷蔵庫を開けてLG21を飲む。

子供に愛を持って、叱りたいけど叱れないわけじゃなくて、叱れない状況もある。仕事もある。時間も限られている。この状況の中で、子供と向き合う育児。

まさしく、育自だと言う人もいるけど。いい修行です。


【今回の気づき】

お母さん達の中には、叱れないわけじゃなくて、叱れない状況もあるのだ



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!


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