ブスの瞳に恋してる♥ 第131回「男性にも母性はある」
僕は男だ。それは紛れもない事実。だけど、毎日子供を抱きながら向き合っていると、自分の中の父性ではなく母性が刺激されて仕方ない時がある。一番は子供を抱いていて、寝ている時に子供が無意識におっぱいをくわえる時だ。夢の中で僕をお母さんだと思ったのか? Tシャツの上から僕の乳首をパクっと加える。そしてしばらくして「これ、違うな」と思って諦める。Tシャツの乳首の所は結構濡れている。この数十秒の間、男の中の母性が刺激される。男性がどんなに頑張っても与えることのできない「母乳」を幻のように体験する。
そこで気づく。母乳を与える行為とは、その時に母と子供が繋がる行為なのだと。まるでお腹の中でヘソの緒を通して繋がっていたかのように。
妻が仕事を再び始めてから、笑福と二人でいる時間が増えて、不安じゃないと言えば嘘になるが、僕自身も、その時間ひとつひとつが自分の自信になっていく。が、しかしだ。泣いたり愚図ったりした時。妻だったら母乳をあげて落ち着かせることが出来るが、僕には母乳をあげるおっぱいがない。
僕がミルクをあげるのとはまた違う、母乳で母と繋がった時にしか見せない顔と安心感。
出来ることなら僕だってあの顔をさせてあげたい。だけど残念ながら出来ない。悔しい思いすらある。なんで男からは母乳が出ないんだと、いまさらながらそんなことに文句を言ったりする。「もしもピアノが弾けたなら」という曲があるが、「もしも母乳が出たのなら」という曲を作りたくなる。「だけど~僕には母乳がない~♪」と替え歌して西田敏行が歌ったら、今の僕は号泣してしまうかもしれない。
そんな母乳コンプレックスを感じている中、たくましい男、いや女性が1人いた。その名ははるな愛。ご存じニューハーフだ。彼、いや彼女は僕と同じ年で1972年生まれの今年44歳。妻が超若手の頃からはるな愛ちゃんとはお友達で、それもあって僕も仲良くさせてもらっている。僕と同学年なので、彼女と会うたびに「もしかしたら、この人も同じクラスにいたのかもしれないんだな」と思うと、同じ年数だけ生きてきたのにその人生の違いに感慨深くなってしまったりする。
今年に入ってのある日の月曜日。妻は「ヒルナンデス」に生出演。僕は、野沢直子さんに頼まれて書いた舞台の台本の件で、ゲストとして出ていただくはるな愛さんに、どうしても打ち合わせしたいことがあった。その打ち合わせ時間が、妻が「ヒルナンデス」に出演する時間しかなかった。なので、はるな愛ちゃんに、息子の笑福を会わせたい思いもあり、僕は笑福を抱っこ紐で抱っこしながら、打ち合わせに行くことにした。
楽屋に入ると、すぐに愛ちゃんは「あ~~~、超かわいいんですけど~~」と、女性的でありオネエ的なリアクション。本当だったら早く打ち合わせをしたかったのだが、「抱いていい?」と言ったので、「どうぞどうぞ」と笑福を抱いてもらうことにした。僕が息子に「はるな愛おじさんですよ~~」と言うと、愛ちゃんは「お姉さんです~~」と切り返すお約束。まあ、「オネエ」だから「お姉さん」は間違いではない。
さすが愛ちゃん、笑福を抱くのは上手だ。早く打ち合わせしたいのだが、なかなか抱っこをやめない。すると愛ちゃん、とんでもないことを言ってきた。「ねえ、おっぱいあげてもいい?」と。
え? おっぱい? ニューハーフかもしれないけど、おじさんだよ
ね? 愛ちゃん。僕と同じ年の。
だけどそこで思いだす。以前、愛ちゃん、熱く語っていた。ちょっとだけ母乳が出るのだと。
そして親戚の子供だか誰かにあげたことがあるのだと、自信満々に語っていた。
正直、「NO」と断りたかった。だってね、本人は「母乳」と言ってるが、それって母乳に見えて違う液体のような気がするし、何より、女の子になったとは言え、僕と同じ男性、おじさんの乳首を笑福が吸わなきゃいけないのだ。
だけど、はるな愛ちゃんの、オネエを超えた母親のような顔。笑福を見て、彼の中の母性が刺激されたのだろう。僕だって自分の中に母性を発見した今、僕を見つめる愛ちゃんの願いを断るわけにはいかなかった。そして人生なんでも経験だ! 僕は言った。「よし、笑福、吸ってこい」と。
愛ちゃん、早速シャツをめくり、僕らに見えないようにおっぱいを出した。そして「はい、笑福君、おっぱいだよ~」と言って向ける。すると、それまで愛ちゃんに抱かれて笑顔だった笑福が、すごい勢いで手を左右に揺らして拒む。「NO―――! NO―――!」という顔で。愛ちゃんは「そんなに嫌がらないで安心していいんだよ~~」ともう一度チャレンジしたが、笑福は今度は体全体で「やめろ―――――!」と言わんばかりに拒否したので、僕は笑福を抱いて「はい終了――――! 笑福、飲みませんでした~~~」と言った。愛ちゃんのあの悲しそうな顔。気持ちはわかる。僕も母性を刺激されている人間だからね。
とは言え、人の子供に母乳を吸ってもらおうとするそのチャレンジ精神、やはりすごいなと思いつつ。家に帰って妻にそのことを報告すると、「あの野郎――――!」と言ってましたが、拒否したことを伝えると、笑福の頭をなでながら「さすが笑福!おじさんの乳首を吸わなくてよかった」と言っていた。そして笑福は笑顔。愛ちゃんがこれを見ていたら言うだろう。「家族で言うよね~~~~」