ブスの瞳に恋してる♥ 第146回「15年目突入」
鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第146回「15年目突入」
結婚15年目に突入しました。交際日0日で結婚。婚姻届を出しに行った日が初めて二人きりになった日。そんなふざけた婚、いや、実験婚、いや、勢い婚、いや、運命婚から15年目になるなんて。
婚姻届を出した後に、僕と妻はファミレスに行き、そこで妻は初めて二人きりになった感想を言う。「なんか気まずいね」。正直あのとき、僕も不安だった。笑ってごまかしてたけど、不安。そんな、15年前のあのときの僕に言ってあげたい。
15年前、不安そうにガストでハンバーグを食べてる俺にメッセージ!
15年前の俺よ! 今は不安かもしれない。勢いでとんでもないことしちゃったな~って思ってるかもしれない。だけど安心しろ。目の前にいる、ラーメンマンのような髪型をした妻、美幸がおまえの人生を変えてくれるぞ。
今はまだ「おさむさん」「大島」と呼び合ってるだろ? だけど、そのうち言ってくれるぞ「お互いの名前の呼び方を変えよう」と、「みぃたん」「むぅたん」と呼び合おうと。最初は「おーたんじゃなくて、なぜむぅたん」と思うかもしれないが、とにかくみぃたんに従え。その呼び方でお互いの会話に敬語がとれてぎこちなさが消えて、愛が芽生えてくるから。
いいか? 今までお前がしてきたのは恋だ。あと数年たつと、「これが人を愛するってことか」ってことに気づかせてくれるぞ。
2年目くらいで、みぃたんは、幸せな家庭を持つことと芸人であることのバランスが悪くなり悩むぞ。だけど安心しろ。その日、家に帰ってバリカンで頭を坊主にして、自分が芸人であることを泣きながら覚悟する。そのときはバリカンをそっとやさしく持ってやるんだ!
そこからさらに、今のお前が驚くくらい仲良くなるぞ! 一緒に色んな国にも行くようになるぞ。楽しい思い出も沢山出来る。だけどな、楽しい思い出だけじゃない。妊娠して喜んだのもつかの間、残念なことになる。今のお前は自分達夫婦にそんなことがあるなんて! と思うかもしれない。だけどな、不幸は結局みんな他人事。自分の身に起きて自分ごとになる。妊娠して三回目の検診に行ったみぃたんから電話が来る。すっとんで病院に行ってやれ。何も言わなくていい。一緒にいてあげるだけでいいんだ。その悲しみからもう立ち上がれないんじゃないかと不安になるかもしれない。だけど人間はみんな「時間」。時間が解決してくれる。だけどな、その悲しみは一度じゃない。二回もやってくる。だけど、その二回の悲しみによって、みぃたんはさらに芸人として覚悟を決めるぞ! スタントマンみたいに体を張りまくるぞ。だけどな、体を張りまくったあとに、みぃたんは決めるんだ。「妊活」と言って、妊娠する体作りをするために仕事を休むぞ。最初に聞いたら驚くかもしれない。だけど、お前が迷うことなくみぃたんの背中を押してあげるんだ。精子の検査に行くと、お前の精子検査で「やや奇形」と出るが、そんなに焦るな。とにかく勉強するんだ。子供が出来る奇跡を。そうするとな、人工授精をやったら妊娠するぞ。三度目の残念な結果になるかもしれない……と不安になるかもしれないが、お前は顔に出すな。一番不安なのはみぃたんだ。でもな、周りの人が色んなアシストをしてくれて、授かるぞ。生まれてくるんだぞ。結婚して13年で、男の子だ。さあ、そうしたらお前はどうする? みぃたんが妊活休業と世間に発表して、待望の我が子を授かった。お前はそのままでいいのか? いやダメだ。仕事を休むんだ。テレビの作家業をお休みするんだ。父勉と名付けて休むんだ。そうしたら色んなことが見えてくる。日頃の家事がどれだけ大変かってわかる。料理を作って人に「うまい」って言ってもらえるのがどれだけうれしいかわかる。季節の野菜を覚える。なにより、0歳から一年、子供と一緒にいられることで、子供との絆が深くなる。間違いない。0歳から近くにいることで、その絆の深さは何にもかえがたいぞ。
はっきり言おう。仕事を休むことで失うものもある。このキャリアでクビになる仕事もある。だけど怖がるな。その仕事の100倍、いや、1万倍のものを手に入れるから。失った分、またそのときの自分に必要な仕事が入る。そこで自分を表現するんだ。休んで良かったと心から思えるはずだ。
そして子供は、ズリバイを覚え、ハイハイを覚え、立ちだし、徐々に言葉を覚える。周りを見渡してみろ? ほかのお父さんとお前と笑福の絆の深さは間違いなく違うはずだ。
いいか? 何かを得たら何かを手放すことも大事なんだ。今のお前にはわからないかもしれない。いいか? とにかく笑うんだ。15年の間に、悲しいことやつらいことも沢山ある。だけどな、結果、笑うんだ。笑ってとばすんだ。笑えばその先には福が来る。そしてそれを体で感じて、子供の名前につけるんだ。「笑福」って。
さあ、ファミレスを出て、みぃたんと一緒に歩き出せ。今はまだ手を繋がなくていい。ゆっくりでいい。ゆっくり。
……と、寝ている妻と息子の顔を見てから、机に座りこんな原稿、いや手紙を書いている僕であった。