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「ブス恋♥ イクメンと呼ばないで」 Vol.150

鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第150回「イクメンと呼ばないで」

 
イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


イクメンという言葉が嫌いです。それはなぜかと考えてみたら「イケメン」という言葉に近いからだと思います。そんなことが理由かよ! と思うかもしれませんが、美人ではない女性も美人という物に何かしらのコンプレックスを抱いているはずです。妻も美人に対して嫉妬はしてないと思いますが、テレビを見ていると美人の女優やアイドルを見て「あ、こいつ目、イジったな」とか「あ、こいつ鼻やったな」とか、芸能人美人整形パトロールをするのが大好きです。これはおそらくゆがんだ形の美人へのコンプレックスだと思うのです。

世の中の男性もイケメンじゃない人の方が多いはずだからこそ、イケメンという言葉が好きではない男性も多いはず。この言葉がすごいのは、イケメンという言葉が誕生したせいで、女性が「あの人格好いいよね」と堂々と発言できるようになった。この「イケメン」誕生以前は、女性が男性の容姿を批評することにもっと照れと恥じらいがあったはずなんです。だけど、この「イケメン」という言葉でそれがなくなり、イケメンではない男性達がちょっとだけ生きにくい世の中になったのも事実。だからこそ、この「イクメン」という「イケメン」をひっかけて生まれて誕生してしまった言葉が僕は好きではない。

先月、仕事で出会ったイクメンのイベントなどを仕掛けている人達が「実はイクメンという言葉、父親達から評判良くないんですよ」と言っていたので安心した。

で、先日、夫婦でペアレンティングアワードというママ雑誌・育児雑誌が出版社の垣根を越えて決める光栄な賞のカップル部門をいただいた。その席でつるの剛士さんがパパ部門で受賞して来ていた。昨年、奥さんが5人目のお子さんを出産し、つるのさんは一ヶ月育休を取った。その一ヶ月は奥さんを水場に立たせないと決めて、炊事洗濯掃除、すべてをやりきった。その結果、子育てをしている奥様がなぜママ達で集まって愚痴を言い、料理をインスタにアップするのかなどの気持ちがよ~くわかったと言って爆笑と共感を取っていた。一ヶ月にすべてが凝縮している。なんて格好いいんだと思った。僕は仕事を減らして一年間、育児に向き合ってみたものの、毎日妻の料理を作るのが精一杯で、すべて目の前で起こる初体験に振り回されただけで終わった気がした。休む期間が大事なのではなく、つるのさんの場合は、休んだ間に何をするのか? というコンセプトがハッキリしている。

そしてつるのさんは言った。「子供が産まれてからイクメン、イクメンと呼ばれて自分で自分をイクメンだと思ったことがないけど、こんなに言われるのならば、イクメンになってやろう! と思って一ヶ月休んだ」と。

そして最後にさらりと言った。「早くイクメンという言葉がなくなるといいんですけどね」と。格好いいー
ー! なんて格好いいんだ! さすがウルトラマン。最初はイクメンを持ち上げておいて最後に落とす。怪獣に散々暴れさせておいて、最後の3分でやっつけて帰って行く。ここまでウルトラマンじゃねえかよ! でも、嬉しかったのは、そこでつるのさんの「イクメン」という言葉への思いを知れたこと。ずっと違和感を覚えていたのだ。

僕のブログのコメントにイクメンという言葉に対して、ママ達が何人も書いていた。「ママがどれだけ育児してもイクママとは呼ばれない」
と。本当にそう思う。母親が育児することは当然の設定とされている。その上でイクメンという言葉が出来ていることに気持ち悪さを感じるのだろう。ただし、イクメンという言葉が誕生したことによって、父親の育児参加がフィーチャーされたことは事実だし、その効果はあったと思う。が、ここまでくると、イクメンという言葉が逆に父親達を追いつめていることに、気づいていただきたい。

僕もたまに取材で「イクメンですね」なんて言われるが、本気でそんなこと1ミリも思ってない。ペアレンティングアワードの授賞式でも妻は言っていた。「育休の一年が終わったら、料理をしなくなった。もうちょっとやってくれてもいいのに」。公の場で公開処刑である。

確かに。ドラマの脚本書きなどが始まってしまい、料理を作る時間がなくなってしまった。それどころか、夜中に帰って、炊飯器に米を入れて朝食用のご飯の炊飯予約をすることすら出来なくなってしまった。もちろん、妻と仕事のスケジュールの調整をして、息子・笑福に対して出来ることは全力でやっているつもりではあるが、たぶん、仕事を始めてからの僕のメモリが少なすぎて、妻から見たら何も出来てないだろう。

笑福が誕生して1年半。いまだに笑福がうんちをしたときのオムツ替えはちょっとドキドキしてるし。妻がロケで夜遅く帰ってくるときは最近は笑福は全然寝てくれなくて、抱っこして寝かしつけたと思ってもベッドに置こうとすると泣き始めて、だけど30分もたつと44歳のおじさんの腰は痛みを発し始めてこっちが泣きそうになったり。僕が笑福に作ったご飯を食べてほしいのに、途中からまったく食べてくれなくなり、頭を下げて「食べてくれよ~」と頼んでみたり。

つるのさんだったら、もっとテキパキやれてるだろう。だけど、僕はそうは出来ない。仕事がキャパオーバーになると、動けなくなる。その中で妻にも「仕事しながらでもいい父親になってきたじゃねえか」と認めてもらえるよう、昨日の夜中、遅くに帰ってきて、布団に入りたい気持ちをおさえて炊飯器にお米を入れて予約だけはしてみた。


【今回の気づき】

イクメンという言葉に追いつめられている男性は多い



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!