マガジンワールド

「ブス恋♥『とうと』と呼ばれた!」 Vol.153

鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第153回「『とうと』と呼ばれた!」

 
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イラスト・ヤマザキマリ


息子、笑福は1歳7か月を超えて、言葉をどんどん覚えていきます。会話は出来ませんが、こっちの言うことをだいぶ理解し始めました。単語として、まずは「まんま(ご飯)」から始まり「ねんね(寝る)」、そして「ドゥー(動画)」、「ぶどう」「めんめ(魚)」と食べ物シリーズ、「あか(赤)」「うえ(上)」など色や方向も認識して覚える。そんな中、妻と僕のことはというと。妻のことは「お母ちゃん」、僕のことは「おとうちゃん」と覚えさせているのですが、言葉が長いのでなかなか覚えず。妻のことは「ママ」と呼ぶことが多い。それと同時に「かあか」とも呼びます。だけど僕のことは「とうと」とは呼んでくれません。「とうとは誰?」と言うと、僕のことを指すので、「とうと」と認識はしてくれているのですが、呼んでくれない。

そんな中、先日、妻が仕事で家を外す時に、お母さんが栃木から助っ人に来てくれまして。

僕は仕事に復帰してから家にいる時間が明らかに減っています。最近は、お母さんが助っ人に来てくれた時には、お母さん一人で笑福の面倒を見ることが多い。

ある朝、笑福は起きてお母さんの方に走っていく。その時に笑福が叫んだのです。「ばあば」と。はっきりと聞こえました。僕は飛び起きて、お母さんの方に行き「今、ばあばって言いましたよね?」と聞くと「昨日から呼んでくれてるのよ」と嬉しそう。

僕も驚くと同時に嬉しかったですよ。ばあばと言ってくれたことが。だけどね、だけど、「とうと」はまだなんですよ。呼んでくれてない。かあか→ばあば、になってしまい、とうとが抜かれてしまった。これに寂しさを感じないかっていうと嘘になるでしょ。だけどね、お母さんの前で寂しい顔も見せられないから、笑福の頭をなでながら「すごいな、笑福」と褒めました。

その数日後。僕の父が病気で入院することになりました。お父さん、不安だと思って、電話しました。「わざわざありがとうな」と言う父の声は不安そう。僕は電話で妻と代わり、妻もお父さんに声をかける。電話を切る前に、妻が受話器を笑福に向けると、なんと笑福がいきなり「じいじ」と言ったのです。二回も。初「じいじ」がいきなり飛び出したのです。

これにはうちの父も「もう涙が出そうになっちゃうよ」と言って喜んでいる。最高のタイミングで「じいじ」を放つ笑福。本番に強い男だと、電話を切ったあとに、僕と妻で笑福のことを褒めまくりました。こういう嬉しい気持ちが病気と闘う大きなパワーになりますからね。でもね、褒めると同時にね、ある気持ちが湧くわけです。「また、とうとが抜かれた」と。かあか→ばあば→じいじ、となってしまいました。不安になって、またそこで「とうとはど~れ?」と言うと、僕を指してくれます。やはり認識はしているけど、言ってくれない。

知人は「た行が言いにくいんじゃないか」と励ましのメッセージをくれるが、本当の励ましにしかならない。いつになったら僕のことをとうとと呼ぶのか? 待ち望んでいる時に、ある事件が起きます。

ニュースなどでも取り上げたところもあったので、知っている方もいるかもしれませんが、僕がオーナーを務める飲食店で落書き事件があったのです。

東京の中目黒で僕はちゃんこ屋さんのオーナーをやっています。僕が店に出ることはありませんが、力士を辞めて夢をあきらめた人の第二の人生を応援するべく、お金を出してオーナーをしています。その店の店長を務める男から電話。店の壁に落書きがされていると。

なんと閉店してから次の日の朝までの間に、何者かがスプレーでかなり大きな落書きを店の壁に書いたのです。英語だか何だかよくわからない文字で。ニューヨークのビルの壁に書かれてるような、そんな落書きをかなりでかく。よくこんなでかく書いて誰にも見られなかったなと。ちゃんこ屋なのにニューヨークの店みたいになっちゃった。警察にも届け出を出しました。いい迷惑です。それを消すだけでも結構お金もかかるし、かなり目立つし営業妨害もいいところですよ。その怒りをブログに書いたら、ワイドショーやニュースなどから取材させてほしいと依頼があり、取り上げてもらった方が、犯人を捜すにも効果的かと思い、やっていただきました。

妻が家でたまたまテレビを見ていたら、夕方のニュースで、うちの店の落書きのことが出てきたらしい。心配になる妻。店の紹介で僕の顔写真が出た時に、笑福がテレビの僕の写真を指して言ったらしいのです。
「とうと」

そこで言うか————! 妻が喜んで報告をくれました。「ニュースを見て、とうとと言ったよー」と。落書きされた結果、とうとと呼ぶ。風が吹けば桶屋が儲かるとは言いますが、ちゃんこ屋が落書きされて息子がとうとと呼ぶ。そんなことあんのかよ———!と。

とうとと言われたことは嬉しいですが、犯人は許しません!!


【今回の気づき】

父親は何かと後回しになる。ただ待つべし



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!