「ブス恋♥妻と息子の応援に感謝」 Vol.159
鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第159回「妻と息子の応援に感謝」
この映画の脚本、2015年1月1日から1月31日まできっちり1カ月、31時間かけて最初の台本を書きあげました。一日一時間書くって簡単そうに見えて、かなり大変なんです。妻はその時笑福を妊娠中。丁度妊娠4~5カ月くらい。安定期に入るかどうかだったので、その年の正月は旅行にも行かなかったんです。家でゆっくりしようと。
で、考えたわけです。妻が妊娠中、お正月にどこにも行かないからこそ、今までやらなかったことをやってみようと。それが一日一時間の脚本執筆でした。当初は自分で監督するつもりはなかったんですが、色んなことがあって自分が監督することになった。ということは、妻が笑福を妊娠したから、自分がその二年後に監督をやることになったんです。
妻が笑福を授かってなければ、映画の監督をやっていなかったでしょう。つまりは笑福が僕に運んでくれた仕事であり、覚悟させてくれたことだと思ってます。「父ちゃん、僕が生まれるんだから、こういう仕事もやりなよ」的な。
そして映画撮影に入ったわけですが、大きな心配がありました。それは妻と笑福と一緒にいる時間がかなり削られていくという問題です。僕は笑福が生まれてちょっとたってから放送作家業をほぼお休みし、育休的なものを一年取ることが出来ました。0歳から1歳の間の息子といられたことで、太い絆が出来たと思ってます。なんでしょう。父と子の間に背骨が出来たという感じでしょうか。だから同じ年くらいの子供を持つ父親と子供の関係を見ていて、正直、あの時期に一年、笑福と一緒にいられて良かったと思うんです。
0歳から1歳の間に毎日一緒にいて、妻が半年先に仕事復帰してるので、笑福が僕の体で寝ることもさらに増えた。僕の体に馴染んだという感覚がある。お母さんは毎日抱いてますから、そりゃお母さんの体に馴染むのは当たり前。だけど、父親がそれほどの時間、抱いていることは難しいけど、一年休めたことで、息子、笑福が僕の体に馴染むことが出来た。僕の体でも安心してくれるのです。これは本当に大きなことだと思ってます。
が、映画撮影が始まると、朝早いし夜遅い。つまりは笑福と一緒にいられる時間がかなり減ってしまう。この状況にとてつもない危機感を覚えました。やはり1歳半を超えてから急激にママを求めることが多くなりました。これは当たり前のことです。それでも、他の父親と比べてみると、笑福は父親である僕を求め、体の馴染みで安心してくれる。
だけど、映画で一緒にいられなくなると、ついに、僕との関係がリセットされてしまうのではないかと思ったのです。毎日ドキドキでした。
が、映画撮影が終盤に差し掛かってきたころ。江戸川区のとある橋の上で一日撮影が行われていた時に、妻が笑福と一緒に見学に来てくれたのです。
丁度一つのシーンが終わった時、橋の入り口あたりに妻と1歳11カ月の笑福がとことこ歩いているのが見える。撮影現場に妻と息子が来たら照れてしまうかなと思ったのですが、とても嬉しかった。まず昼間の妻と笑福に会えたこと。思わず「笑福――!」と叫びました。
久々に昼の笑福と対面。すると笑福は僕を見つけるなり、50m以上先のところから「とうと~~」と叫んで僕の所に全力で走ってきたのです。そんな笑福を僕は全力で抱きしめました。良かった。その時に確信しました。笑福の僕への気持ちはリセットされてなかったことを。主演の吉田羊さんにも「父親を見つけてあんなに走っていく子供、初めて見ました」と言われました。やはり0歳から1歳の間に築きあげた絆は大きかったと。思っていました。
その数日後、ちょっと早めに終わったので家に帰ると、妻と笑福が一緒にお風呂に入っていました。妻は僕が帰ってきたことに気づいてない。風呂の扉に近づくと、妻が笑福に話しかけている声が聞こえました。その声は「笑福、とうと、毎日頑張って新しいお仕事してるんだよ。もうちょっとで終わるから応援してあげようね」と言っていた。
そうです。妻は僕が映画に入ってから、おそらくこのように、毎日、笑福に対して、僕がなぜあまり家にいられないのか? 何をしているのか? 説明してくれていたのです。だから、笑福もそれを理解してくれていた。僕との絆が細くならないように、妻がちゃんと話してくれていたんです。
それを聞いた時、本当に妻に感謝しましたし、それを理解してくれている笑福にも感謝しました。そして、作っている映画をいいものに仕上げて、ヒットさせることが、恩返しだなと強く感じたのです。
妻よ、笑福よ、映画は絶対いいものにします! 期待しててくれ! ありがとう!