「ブス恋♥なんでこんなことも…。」 Vol.167
鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第167回「なんでこんなことも…。」
[ヤマザキマリの場合]
やまざき・まり/漫画家。イタリア在住。『テルマエ・ロマエ』は世界8カ国で翻訳。
そして妻がご飯をよそおうとジャーを開けると「えーーーー!?」の声。そして「ご飯がなーい」と言ったのです。
前日、炊飯ジャーに残っていたご飯を僕は食べきっていました。だから「あ、昨日食べちゃったよ」と言いました。
数秒前の幸せな空気が一転、どんよりした空気に包まれました。
妻は言いました。「食べたなら、ジャーを流しに出しておいてよ」と悲しそうに言いました。
そこに2歳の息子、笑福が起きてくる。妻は何度もため息を吐いて、「なんでなのかなぁ」と言います。「食べ終わったなら、ジャーを流しに置いといてくれたっていいじゃん」と。
妻は「お米を炊いておいてくれ」とは言ってません。もっとレベルが下の話です。
僕はなぜ、食べ終わったあとに流しに持って行かなかったのか?それは油断であり、妻が気付くだろうと思っていたのです。
妻のため息が増えていき、最初は嘆きだったのが怒りに変わり「なんで、このくらいやってくんないのかな?」と言うと、笑福が妻の膝を抱きしめて「だめーー」と言います。「怒っちゃだめ」ということです。すると妻が「ごめん。笑福」と言います。
笑福は僕を守ってくれたわけじゃなく、妻が怒る姿を見たくなかったのです。
結局、笑福はおかずだけ食べました。最近はイヤイヤ期でもあるので、作ったご飯を食べないときもあるのですが、えらいもんで空気を読んでか、おかずだけをご機嫌に食べてくれました。2歳の子供にここまで気を遣わせてもうしわけないなと思いました。
自分は一年放送作家業を休んでいたときには、毎日ご飯も炊いていたし、料理も作っていた。だけど仕事に復帰し一年以上がたち、妻からしたら「なんでこんなこともやってくれないのかな」ってことも出来ないダメ夫になっていたのです。
そこでブログで書きました。全国の奥さんに「旦那さんに、なんでこんなこともやってくれないの?」ってことありますか? と聞いてみたら、まああるわあるわ。
食べた食器を下げて洗ってとは言わない! 流しに持って行くくらい出来ないのかなぁ。飲みかけのビールの缶を流しに放置するな! 飲みかけを流しに流せないかなぁ。ゴミ箱に入れること出来ないのかなぁ。夜中にカップラーメンを食べた後の箸を水につけておくことくらい出来ないのかなぁ。ご飯食べておいしいの一言くらい言えないのかなぁ。洗濯をしてくれとは言わない! 脱いだ靴下を裏返しのまま洗濯機に入れないでもらえないかなぁ。脱いだ靴下をなんで洗濯機の横に置くかなぁ。洗濯機に入れられないのかなぁ。脱いだズボンをイスに掛けっぱなしにしないでもらえないかなぁ。洗濯機に入れるズボンのポケットの中の確認くらいしろよぉ。トイレットペーパーの芯ちょび残しはやめてくれないかなぁ。使い切って替えてくれないかなぁ。風呂上がりは換気扇回せないのかなぁ。
と、まだまだこんなもんじゃありません。これね、読んでみて思ったんです。奥様たちが求めてることは、すごくレベルの低いことなんです。料理を作れとか食器を洗えとか掃除しろとか洗濯しろとか、そういうことじゃないんです。もっと手前の話。
自分がついついやってないことも沢山あり。胸が痛くなりました。
それを読んで思いました。自分も含めて全国の旦那さん、どんだけ奥さんに甘えてるんだと。そりゃ怒るわと。
僕もね仕事場に行けばまあまあ仕事出来る方ですよ。全国の旦那さんもそうでしょ。だけどね、家庭に帰ってくるとなぜこんなダメ男になってしまうのか。
やはり甘えてるんです。
これを読み、自分の中で決めました。奥さんの中の小さなイライラをなくす努力をしたいと。「こんなことくらい出来ないのかなぁ」と思わせないようにしたいと。
そう決めた数日後。妻が先に仕事に行きました。ベランダに干してあった洗濯物を取り込んでほしいと言われていました。僕は仕事に行く前に洗濯物を取り込み、無事、任務を実行。
仕事に出ると雨が降ってきました。家に帰ると妻が怒ってます。「ねえ、なんで洗濯物取り込んでくれなかった?」と。僕はすかさず「取り込んだよ」と言うと、「まだ、あったでしょ」と。
そうです。僕が取り込んだ洗濯物のちょっと横にもう1セット、洗濯物があったんです。
ちょっと横を見れば洗濯物があったのに、そんなことにも気付かなかったんです。
そして妻が言います「なんでこんなことくらい出来ないのかなぁ」と。僕も心の中で呟きました「なんで、俺こんなことも出来ないのかなぁ」。