「ブス恋♥健康でいなきゃ。」 Vol.168
鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第168回「健康でいなきゃ。」
[ヤマザキマリの場合]
やまざき・まり/漫画家。イタリア在住。『テルマエ・ロマエ』は世界8カ国で翻訳。
僕は20歳から32歳まで一日100本以上はタバコを吸っていました。32歳でやめて、今は週に二度ほどお酒を飲んだときに葉巻をたしなむ程度。
葉巻は大丈夫だと思っていたら、医者からかなり厳しく注意を受けまして。
とにかく生活習慣をかなり変えないと、50歳過ぎて、本当に肺が機能しなくなってくると。
かなり厳しいなと思いましたが、そこまで厳しく言わないと、生活を変えない人も多いのでしょう。人間ってそんなものですよね。人って、何かに強烈にビビらないと何も変えない、変わらないですもんね。
で、家に帰ると、さらに厳しい方がいました。妻です。検査の結果を話すと、先生よりも厳しく注意。
日々、夜中まで仕事した後に酒を飲みに行って帰ってくる。朝は起きるのが遅く、笑福の面倒もあまりみれない。最近の生活態度に怒り紛糾。
「結果、肺が真っ白とかふざけんなー」と。そして「笑福が成人する姿を見たくないのかー?!」と。プラレールで遊ぶ笑福の横で怒る妻。
人間、誰しも油断します。これだけ色んな人が病気の怖さを叫んでいても勝手に「自分は大丈夫」と思いこんでいる。癌だったり、重い病気になってから後悔するのはわかっているのに、油断する。
医者の注意と妻の怒りを受けて、ちょっとだけだが、自分の生活を変えようと決意。まずシガーをやめてお酒の回数も減らす。小さすぎることだけど、こういう小さなことから始めることって意外と大変ですよね。
笑福の20歳のときの顔を見るために、父さん、少しだけ自分を見直します!と心に決めた2017年、秋。
で、夜、仕事が終わり、飲みに行きたい気持ちを抑えて家に帰ってくると。妻の様子がおかしい。
「痛い、痛い」と背中をおさえている。数ヶ月前にもこんなことがあった。そのときは最終的に、トイレで吐いたら楽になり、「食あたりだろう」ということで解決していた。
妻は額に脂汗を流して、ソファーにうつ伏せに倒れているような状態だった。言葉も発せない状態の中で「背中、押してほしい」と言われて、背中とお尻の間をギューギュー押す。すると「ちょっと楽になった」と言うが、数分後、また激しい痛みで妻は動けなくなる。
僕は背中を押しながらネットで症状を調べると、そこに出てきたのが「結石」の文字。妻にそのことを話すと、妻の父が胆石をやったことがあった。妻も胆石があると言われたらしい。さらにネットで調べると「尿管結石」の文字。尿管結石の痛みを和らげるというツボを押して、そして「水を飲む」と「立って体を動かす」と書いてあったので妻に試してもらったら、見事に直った。
この日も途中、吐き気があり、トイレで戻した。吐き気も尿管結石の症状として書いてあった。まさか結石と吐き気がつながるなんて思ってなかったから驚いたのですが。
その痛みが治まったあと、妻は「近々、病院に行く」と言っていたのですが、なんと翌日、笑福を歯医者に連れて行く途中に同じ痛みが襲ってきて、病院に駆け込み、痛み止めと点滴。そして、病院で検査をしてもらったら、やはり尿管結石。しかも胆石も大きくなっているという。
尿管結石は「だいぶ下に落ちてきてるよ」とのことで、「あと一回の痛みがあれば出てくるかも」と言われたらしく。僕は「あと一回ならいいじゃん」と思ったが、痛みの王様と言われる尿管結石の痛みを「あと一回か~」とおそれる妻。
いろんなストレスと向き合いながらも育児をしてきた妻の体にはいろんな石が出来ていた。妻は日頃から健康なので、病気になるイメージはあまりなかったが、今回を経て「もし妻が大きな病気にかかってしまったら」と想像する。想像するが考えたくない。もしものことがあって妻がいなくなってしまったら、一体どうなってしまうのか?
そうならないためにも、この際だから妻にはちゃんと検査をしてほかの病気も含めて調べてもらい、健康な体になってほしいと強く願う。
妻もおそらく食事制限しなければならないだろう。妻に健康になってほしいと願うには、まず自分もそれを言える体を手に入れないといけない。
父親になるために大切なこと。健康でいることって、父親であるための、大切なことなのだと、あらためて気づけました。