「ブス恋♥レンゲ事件。」 Vol.175
鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第175回「レンゲ事件。」
この「人の握ったおにぎりが食べられない問題」に関しては、意外と共感する人がいる。男性が多いような気がする。
そんな僕だけど、妻のおにぎりは食べられる。交際0日で結婚している妻と一緒に住み始めた時は、ほぼ他人に近いわけです。でも、なぜでしょう。妻のおにぎりは、結婚してすぐから何の問題もなく食べることが出来た。結婚して家族になったらいいのだろうか? つまり、これは精神的な問題なのではないかと気づく。ちなみに、お店で出てくるおにぎりは大丈夫だ。赤の他人が握っているのに、最初から「商品」として出てくるのは大丈夫。
妻とは結婚して15年。おにぎりを握ってくれることもしょっちゅう。キスもするし、一緒にお風呂も入れる。なぜ、こんなことを書いてるかというと。そんな妻と一緒にご飯を食べに行った時のこと。
15年で初めての「躊躇」があったからだ。
何を躊躇したというのか?
お隣に住んでいるAさんご夫妻と、そのお子さん。そして僕と妻と息子の笑福、6人で近所の中華屋さんでご飯を食べることになった。近所といっても歩くと微妙な距離ということで、電動自転車で店まで行くことになった。妻とAさんの奥さんは自分の電動自転車。
マンションで貸してくれる電動自転車が一台だけあるということで、僕が乗ることになった。Aさんの旦那さんは代理店に勤めている方。普段からスケボーに乗っているのだという。
年も僕と近くて40代。店に向かう間に、颯爽とスケボーに乗っている姿は格好いいなと思ってしまった。Aさんの息子も、自分の父親の姿を見て、格好いいな~と思っているだろう。
僕は、その日、ほぼ人生初の電動自転車だった。スイッチを入れて、ギアを入れて、ペダルを一気に踏み込む。と、想像より自転車が一気に前に出て、あわてて倒れそうになる。
電動自転車初体験あるあるらしいのだが、その姿を見て、妻と息子、Aさんの家族も笑う。電動自転車で壁に激突しそうになる45歳のおじさんと、スケボーに乗る40代のおじさん。えらい違いだ。
中華屋さんに着いて、注文。メインはラーメンか麻婆豆腐丼。妻はラーメンを頼み、僕はチャーハン。二人でシェアして食べることになった。ちなみに息子はお子様用セット。
前菜からおかずまで、とてもおいしい。何より、お隣さんのご家族と休日に一緒にランチしているこの小さな幸せ感がいい。子供同士が、店内をキャッキャ言いながら走って、たまに注意する母親なんか見ていると微笑ましくなる。
そしてメインが登場した。麻婆豆腐丼とラーメンが来て、妻がシェアする役目。妻はまずレンゲで麻婆豆腐丼を半分に分けます。とても香ばしい匂いがしておいしそう。
続いてはラーメン。麺を半分に分ける。スープも分けたかったのですが、目の前にあるレンゲには麻婆豆腐がちょっとついている。本当にちょっとだったので、僕は「そのレンゲでいいんじゃない?」と言いました。麻婆豆腐がちょっとくらいついてたって味は変わらないだろうと。店員さんも忙しそうだったので、レンゲ一個もらうのが申し訳ない。だったら、それでいいじゃんと思ったのです。
すると妻は、その麻婆豆腐のちょっとついたレンゲをベロリと口の中に入れて、ギュルギュルと吸うように、レンゲを綺麗にしてしまいました。そして、そのレンゲをラーメンのスープの中に入れて、スープをすくい出したのです。
その光景を見た時に、「え?」と思ってしまいました。そしてシェアしてくれたラーメンが前に置かれた時に、躊躇する自分がいました。
僕は思わず妻に聞きました。「なんで今、レンゲ、ナメた?」と。
妻のことは好きです。愛してます。結婚15年で何百を越えるキスもしてきました。風呂も入った。妻の握ったおにぎりだって食べられる。でも、なんでしょう。レンゲ全部に妻の唾液がついて、それがスープの中に入って溶け込んでいく。
僕がそれを言うと、妻は「べつにいいじゃん」と言いましたが。いや、良くない。これは良くない。何が嫌なんだ? 唾液が入ったから? でも、それだけじゃない気がする。お隣のAさん家族は大爆笑。奥さんが言った。「うちの旦那も同じようなことやって、私、怒ったことあるんです」と。
結婚して15年もたつのに、こんなことで躊躇する自分がいるのだと驚いた。一体何が嫌だったのかは自分で解決出来ていないのだが。夫婦っておもしろい。結婚して30年たってもこういう発見ってあるのだろうか?
ちなみに、レンゲをナメる妻を息子はじーっと見てました。