マガジンワールド


ブスの瞳に恋してる♥ 第134回「添い乳の力を思い知る」

イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


2016年3月。父勉中の僕にとって、育児の天王山が来ました。芸人として復活した妻が、母親として2度目のイッテQ海外ロケに行くことになったのです。前回は生後6カ月。今回は8カ月後半。前回は妻のお母さんのアシストもあり、無事に乗り越えられた。

今回もお母さんが来てくれる。だが前回との大きな違いは、妻が海外に行く5日間中、2日間、お母さんがどうしても実家に戻らなければいけないということ。つまりは、息子、笑福と僕だけで過ごさなければいけないのだ。「そんなの一日くらいいいじゃないか?」と思う人もいるかもしれない。一つ大きな問題があった。前回、生後6カ月の時はほぼ母乳で育てていたが、たまにミルクを飲ませていた。だから妻がいない間も、なんとかミルクを飲んでくれた。だが、今回は完全母乳に近い状態だった。試しに僕がミルクを与えてみるものの、哺乳瓶を拒否。ミルクを飲まなくなってしまったのです。ただ、離乳食はかなり食べ始めていたので、母乳を飲まなくても大丈夫といえば大丈夫。だけど僕からしたら大丈夫ではない。

そして最大の問題があった。妻が添い乳(そいちち)で寝かしつけていたのだ。添い乳、聞こえは「ソイラテ」とかおしゃれな飲み物と似ているが全く違う。説明しておくと、子供を寝かしつける時に、ベッドの上でおっぱいを飲ませると子供は眠くなる。乳首をくわえたまま寝てしまう。乳首をくわえさせた状態で横たわる。これが添い乳といって、子供はすやすや寝てしまう。ただ添い乳で寝る癖を覚えてしまうと、おっぱいを飲みながらじゃないとなかなか寝つけない子供になってしまうのだ。あるママが言っていました。「添い乳で育てると、自分が仕事をし始めた時に大変だと聞いたから、生まれて3カ月以降は、寝る時の母乳はやめて、寝るトレーニングをした」と。そう。乳首をくわえずとも、母親が抱きしめなくても、隣で寝るようになるには、トレーニングが必要だったなんて。

妻が5日間、海外に行く間は添い乳が出来ない。前回の時にはまだミルクを飲んでくれたので、ミルクを飲みながら哺乳瓶を乳首だと思い、そのまま寝てしまうことがあった。だが、今回はミルクも飲まない。添い乳も出来ない。しかも、ラスト2日間はお母さんもいないため、添い乳も出来ない僕が、ミルクを飲まない子供を一人で寝かしつけなければならないのだ。妻は心配で仕方なかった。ギリギリまで行くことをためらっていた。だけど僕は強く背中を押した。「行ってきなさい」と。芸人という仕事をしてる以上、笑わすのが必要である。

妊活中に待ってくれたスタッフがいる。芸人に復帰した以上、やはり行かなければならない! と、少し厳しい口調で言った。息子に申し訳ないと思ったが、妻は母親であるが芸人でもある。芸人を引退してるなら仕方ないが、芸人である以上、格好よくいてほしいと思ったからだ。

内心、めちゃくちゃ不安だった。母乳の出るおっぱいキットを取り付けられるのならば、付けたかった。だけど、そんなもの、Amazonでも売ってない。

妻は今回はフィンランドで寒中水泳を行う。不安と心配が募りまくりの中、妻はフィンランドに旅立って行った。もちろん、家から出る時は妻は号泣していた。

妻が旅立ち1日目。お母さんも来てくれた。前回は初日はとてもご機嫌だった。お母さんがいないのだということに気づいたのが2日目くらいからだったので、多分「ちょっとお出かけしたんだな」くらいに思っていたのだと思う。だけど今回は初日から気づいていた。母親が長期ロケに行ったことに。だからテンション低め。デート中の機嫌悪い彼女みたいだ。昼間は泣きはしなかったが、明らかに笑顔が少量になっている。

離乳食はよく食べる。これだけ食べてくれれば母乳を飲まなくても大丈夫だ。ただ、寝る時には飲ませたいものがあった。妻が搾乳して取っていった母乳。5日間、夜毎日飲んでも大丈夫な量を取っていってくれた。湯煎して、哺乳瓶に入れて、飲ませようとすると、哺乳瓶を拒否。でも、中身はミルクではない。飲めば分かってくれるはずだ。いつも飲んでいるお母さんのおっぱいだからだ。なので、お母さんと協力してちょっと強めに口に入れてみた。

すると笑福はちょっと吸って口に含んだ。その瞬間だ。「ふざけんじゃねえよ」と言わんばかりの勢いで顔を強張らせ、右手で哺乳瓶を弾いた。「てめー、偽物売りつけやがったな~~」みたいな勢いだ。その後もう一回チャレンジしたが、この小さな体のどこにそんなパワーがあるのだというくらいの力で哺乳瓶をパンチして弾いた。全盛期のマイク・タイソンか? そこで分かった。笑福は母乳よりも妻のおっぱいをくわえることで安心していたのだと。

これは困った。泣きだす笑福。泣きながらも僕とお母さん交互で抱っこしていると、寝てくれた。寝た後が問題だ。布団に置くと、パッと目を開けて泣きだすからだ。お母さんがチャレンジするが起きて泣く。それを1時間くらい繰り返していたら無事に布団の上で寝てくれたのだ。良かった。寝てくれた。2日目からは、母親がいないことを割り切ったのか、ちょっとずつ機嫌がよくなっていった。2日目、3日目と、夜も時間はかかったが、布団でちゃんと寝てくれたのだ。正直、お母さんも前回より疲れている気がする。

そして問題の4日目。お母さんはかなり心配しながら栃木の実家に帰る。ついに僕と笑福、二人だけで過ごす2日間が来た。絶対大丈夫! と自分に言い聞かせてはいたが。

大丈夫……ではなかった。


 
今回の気づき
これからお子さんを
授かる方に! 添い乳(そいちち)で寝かすのはやめよう!
妻の妊活休業から、ついに妊娠に至るまでの日々をつづり、日本中の夫婦に感動を与えた単行本『妊活ダイアリー From ブス恋』、大好評発売中。既刊『ブスの瞳に恋してる』シリーズ(1~4)も併せてお楽しみください。



鈴木おさむ
放送作家。テレビの放送作家業は1年間休業。ドラマの脚本や小説も数多く執筆。はじめての恋愛小説『美幸』(角川書店)が好評発売中。