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ブスの瞳に恋してる♥ 第137回「息子も妻もたくましい!」

イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


2016年5月29日、息子、笑福にとっての人生初の大きな晴れ舞台がありました。あの両国国技館でまわしをつけて、横綱・白鵬と一緒に土俵入りをしたのです。

テレビなどで見たことありませんか? 地方巡業などのお相撲でお相撲さんが小さな赤ちゃんを抱きながら土俵に入っていくのを。あれをやってもらうと、そのお子さんは元気に健康に育つことが出来ると言われているのです。

その日、37歳で幕内最高齢優勝を果たした旭天鵬関というお相撲さんの引退興行が行われました。モンゴルから渡ってきた最初の力士の1人。この人がいなければその後のモンゴル勢の活躍はなかった。知人を通じてかなり仲良くなりまして、そしたら、引退して親方になるんですけど、その親方の名前が「大島親方」。うちの妻もイッテQという番組で「大島親方」と言われていますが、友人も大島親方、妻も大島親方と、こんなおもしろい神様のイタズラも起きたりしまして。

半年ほど前でしょうか。お酒の席。そこには旭天鵬関と、横綱・白鵬がいて、旭天鵬の引退興行の時に、横綱が土俵入りという儀式を行うという話をしてました。そしたら二人の共通の友人である男が「国技館で横綱が土俵入りをするなら、そこで笑福君を連れて入ればいい」と言ったのです。ちなみにお子さんを連れて土俵に入るのは、本来の場所中で行うことは出来ず、巡業の時となる。だから両国国技館で横綱と一緒に土俵に入ることが出来る子供など、非常に少ない。その「切符」をわが息子にくれたのです。旭天鵬関が横綱に頼んでくれまして、即OKしてくれた。大島親方になる男が大島親方の息子へのプレゼント。

そして当日。お昼に両国国技館に入り、支度部屋に笑福を連れていきました。妻と一緒に笑福を連れて支度部屋に入ると沢山のお相撲さんが髪を結ったり準備しております。大きな男たちの連発に、笑福は完全に目を見開いている状態です。そこで準備されていた一枚の化粧まわし。「笑福」と書いてある。筆の字で。その字、白鵬関が笑福のために書いてくれたもの。ありがたい。その神がかりパワー満点のまわしをつけました。鈴木笑福、11カ月のお尻がいい感じで出ています。笑福はまさか自分のこの姿が8000人の客の前に出ると思っていません。そんなことしてると本番。

国技館の土俵に入っていく通路に、旭天鵬関、白鵬関がスタンバイしている。白鵬関が笑福を抱いていくために、渡さないといけない。僕らにとっては横綱だけど、笑福にとっては体の超大きなお兄さんにいきなり抱かれるわけです。

妻が横綱に「お願いします」と笑福を渡す。目が「?」の笑福。何が起きているかわからない。そして、白鵬関が笑福を連れて土俵に向かって歩き出す。8000人以上の観客の視線をいきなり浴びることになるわけです。

この時、妻はカメラを首に下げていました。僕も妻も、みんなが土俵に入ってから、その後ろを追いかけて行くつもりでした。でも、そうなると笑福が土俵に入っていく様をカメラで撮影することは出来ない。その時、歩き出した旭天鵬関が「気にしないで前歩いて、土俵の方まで行っちゃっていいからね」と。土俵の周りには沢山のカメラマンがスタンバイしている。正直、僕は「無理でしょ」と思ったのですが、母は凄い。カメラを持った大島カメラマンが突撃。普段妻は芸人というお仕事をしている。体を張りまくり結構暴言を吐く芸風ですが、そういう人ほど、まじめで空気を読んだりします。ガツガツして自分のことばかり考える人間がとても嫌いな妻。ですが、この日は違います。我が息子、笑福を撮影するため、土俵横に突撃。笑福が土俵に入ると、正面の真下に割り込んでいく。満員電車のおじさんをかきわけるように。そしてカメラを上に向ける。周りのカメラマンたちは「お? ガッツのあるやつが入り込んできたな」みたいな顔してますが、「ん? 大島じゃねえかよ」と驚く。

土俵の上。笑福を抱いて入って来た横綱。笑福はただただ圧巻。土俵に入ると、笑福を一度太刀持ちの旭天鵬関に渡す。この瞬間、ついに「泣き出してしまった」。かなりの号泣。僕は思った。「これだけ泣くと迷惑をかけてしまう」と。横綱が四股(しこ)を踏み始める。右足を大きく上げて、土俵に着く。その瞬間、笑福の声が「うわぁ〜〜〜ん」と国技館中に響き渡る。「しまった」と思った瞬間、国技館中……爆笑。そのあとも横綱が足を土俵に落とすたびに笑福の泣き声が響き、そのあとに爆笑。横綱の土俵入りと笑福の鳴き声がリミックスのようになり、会場はあたたかい笑いで包まれた。「良かった」と安心する僕ですが、妻は、そんな笑福を土俵下の一番いい場所で撮影。土俵の上で大島親方に抱えられている笑福をもう一人の大島親方が撮影。その時、近くにいたカメラマンが妻についに言いました。「邪魔だよ」と。妻の耳に激しく届く。すると妻は……無視!! まったく聞こえないフリです。

いや、これが一番驚いた。今までだったら「邪魔だ」と言われたらすぐに「すいません」と言ってどいたはずなのに、無視!

女性は母親になるとたくましくなると言いますが、まさに本当ですね。この土俵入りで、笑福だけでなく、妻も大きく変わりました。

こんな機会をくれた横綱・白鵬。そして何より元旭天鵬関こと大島親方。本当に本当にありがとうございました。

妻の大島親方が友人の大島親方にいつかこの恩を返します。


 
今回の気づき

女性が母親になると本当にたくましくなる!
妻の妊活休業から出産までの日々を、夫の立場で詳細につづった単行本『妊活ダイアリー From ブス恋』好評発売中。既刊『ブスの瞳に恋してる』シリーズ(1~4)も併せてお楽しみください。



鈴木おさむ
放送作家。妻・大島美幸(森三中)の妊活休業から出産までを、詳細につづった単行本『妊活ダイアリー From ブス恋』が大人気。育休ならぬ、「父勉」(父になる勉強)中。既刊『ブスの瞳に恋してる』シリーズ1~4。