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第82回「人生の優先順位について猛省!」

ブスの瞳に恋してる
 
イラスト/ヤマザキマリ
イラスト/ヤマザキマリ
 
第82回「人生の優先順位について猛省!」

男ってダメな生き物である。仕事しすぎるあまりに大切なものを忘れてしまうのだから。
 
結婚前の僕は、とにかく人生においての優先順位の一位が仕事だった。19歳でこの放送作家という仕事に就くことが出来た。自分のやりたい仕事に就けている人なんて少ないはずだ。それだけでラッキー。だけど、好きなことをやるというのはこれまた結構大変です。好きだから言い訳できないし、好きだから他の人には負けたくない。だから人生と仕事が同化していったのだろう。つき合っている人がいても、仕事を優先しすぎ、忙しくて一ヶ月会えなくたって僕はなんともなかった。だって仕事なんだもの。
 
だけど、妻に出会って、僕は変わることが出来た。気づいたら仕事は自分の中での優先順位の二位になっていた。妻がいるから、夫婦があるから仕事にも頑張れる。そう思えるようになった。
 
なのに、たまにやらかしてしまう。なぜに自分が仕事出来ているのかということを忘れて。
 
その日、僕はミュージカルの台本に追われていた。僕が脚本を書くミュージカル。槇原敬之さんが楽曲、演出を宮本亜門さんがつとめる。ありがたいことに「3人のトップクリエーターが集結」なんてキャッチコピーをつけていただけた舞台。台本の直しに追われていた僕は、かなり集中していた。台本を書いていて明らかにノッてきた感じが分かる。このまま突っ走るぞと思ったとき、僕の部屋のドアが開いた。妻が帰ってきたのだ。嬉しそうな顔で手に何か持っている。
 
――これ、乾燥肌に超効くオイル、買ってきたよ

知り合いのマッサージ師さんが僕の乾燥肌の悩みがひどいことを知って、いいオイルを妻に教えてくれた。妻はそれを買ってきて、嬉しそうにその効能とかを熱く語ってくれていた。
 
が、しかし。僕の耳には話が半分しか入ってこない、台本を書いていたから。ノッていたから。台本を書く時のノッた状態って、実はしょっちゅう訪れるわけではない。農作物の収穫時期と一緒で、いいタイミングが来たら一気に攻めなければいけない。妻がオイルの説明をしてくれているのだが、早く台本を書きたい自分と妻の話を聞かなきゃいけない自分が戦って、結果、こんなことを言ってしまった。
 
――今、台本書いてて、後にしてもらってもいいかな?
 
言ってはいけないとは思ったが、言うしかない状況だった。
 
妻は「分かった」と一言だけ言って、去っていった。
 
15分ほどで台本を書き上げた。その瞬間、妻に対しての大きな罪悪感がわいてきた。
 
そもそも妻が僕のことを思って買ってきてくれたオイルなのに。僕のために熱く説明してくれていたのに。僕はなんて悲しいことをしてしまったのだろう。反省した。もしかしたら泣いてるかもしれない。そう覚悟して、リビングにいるはずの妻のもとに向かった。妻の姿はリビングにはなく。洗濯していた。まず泣いてないのは確認できた。それだけで「よかった」と安心してしまった僕もまたバカだ。背中を見て分かった。怒っている。
 
――さっきはごめんなさい。本当にごめん
 
謝った。妻と出会ってから仕事は人生の優先順位の二位になったはずなのに。妻と出会っていろんな楽しみを教わり、生きていくことがもっと楽しくなったはずなのに。そもそも、そのミュージカルの物語だって「愛の唄を歌おう」というタイトルで、妻と結婚してなければ絶対書けない物語なのに。なのに、目の前の仕事を取り、妻に悲しい思いをさせてしまった。心から謝った。すると妻は僕の方を振り向き、激しい口調で言った。
 
――才能あるとか言われてんだったら、5分くらい頭切り替えろよ
 
ズバリ言われた。その後も。

――トップクリエーターだとか言われてんだったら、もっと余裕見せろよ
 
妻から出た言葉は怒りの言葉ではない。お説教。目の前の台本に一杯で妻の話すら聞けない男を「格好悪い」と思ったのだろう。なんだか頭に雷が落ちたようだった。
 
年齢を重ねていくと自分の立場もいつのまにか上がってしまい、僕のことを怒ってくれる人なんて本当に少なくなってしまった。そんな中、妻が僕に浴びせたこのセリフは、自分がどう生きるべきなのか? を改めて分からせてくれた。
 
僕は一言だけ妻に言った。
 
――おっしゃる通りです
 
妻に格好いい男だと思われたい。才能ある男だと思われたい。だから、決めた。切り替えられる男になろう。


今回の格言
格好いい男になって貰うために
怒ってあげよう
あなたの人生の優先順位は何ですか? 仕事の人も多いでしょうが、夫婦ならやはりプライベートを第一に! それをお互い忘れないために、ときにはお説教も必要。そんな夫婦の大事なことは単行本『ブスの瞳に恋してる』シリーズ(1~4)にも!