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第93回「妊活の第一目的は体のメンテナンス」

ブスの瞳に恋してる
 
イラスト/ヤマザキマリ
イラスト/ヤマザキマリ
 
第93回「妊活の第一目的は体のメンテナンス」
妻は2014年5月の妊活休業に入ったら、すぐに大きな予定が一つ入っていました。
 
妊活休業をすると発表した時点から、知識のない男性レポーターなどは「子作りするんですよね」とニタニタした顔で聞いてきました。子作り=SEXみたいな、中2男子的発想です。妻は妊活休業に入る理由の一つとして「体のメンテナンス」を挙げていました。子供を作るのにいい体に仕上げたいと。
 
妻の子宮には数年前から子宮筋腫(きんしゅ)がありました。最初は3センチほどだったのですが、年々大きくなってきていて、5センチを超えていました。人によっては10センチを超える子宮筋腫を持っている人もいるのですね。僕の知り合いは、子宮筋腫がかなり大きくなっていて、病院の先生に「処置しなくて大丈夫」と言われたまま第二子を妊娠、出産。ですが、妊娠7カ月目で押し出されるようにして出産してしまいました。本人は「やっぱり筋腫、取っておけばよかった」と言ってました。
 
この子宮筋腫を処置するか、しないか。つまり手術で治療するか、しないかは本当に意見の分かれるところです。しかも妻の場合は、まだ出産を経験していません。以前通っていた病院では、「手術はしなくて大丈夫だよ」と言っていました。結局、2014年5月の段階で6センチあったわけですが、それでも、お医者さんの意見は分かれます。
 
妻は妊活休業に入る前に、自分で子宮筋腫のことを調べて、1人ではなく何人かのお医者さんの意見を聞き、最終的にとある手術法を知るわけです。
 
子宮筋腫のメジャーな手術方法としては、お腹を切開して、子宮の筋腫を切り取る手術です。これだとお腹に大きな傷が残ります。
 
次によく聞くのが腹腔鏡(ふくくうきょう)手術。お腹の2〜4か所に小さな切開をして、内視鏡を入れて、腹腔内を観察して、専用の器具を使って手術していく。これ、傷口も小さくてすむし、体への負担も少ない。この方法で手術した人の話はよく聞きます。
 
妻はとあるお医者さんに行き、その先生に自分の子宮筋腫を見てもらい、場所が子宮頸(けい)部ぶであることを見て、「妊娠して出産する前に、この筋腫は絶対、邪魔になる」と言い切られたらしいのです。
 
病気した時に大事なのって、自分と相性のいい先生が見つかるかどうかって気がするんですよね。どれだけ技術があっても、人と人なんで、人間の相性が合わないと信じるにも信じきれないというかね。妻はこの先生を信じようと思ったらしいのです。

そして先生が提案した子宮筋腫の手術法は、開腹手術でもなく、腹腔鏡手術でもないもの。
 
その名も「子宮動脈塞栓術(しきゅうどうみゃくそくせんじゅつ)」。
 
初めて聞く方もいるかもしれません。この手術法、フランスで1990年ごろから行われている手術。日本では97年頃より始められて、これまでに世界では25万人以上。日本では推定4000人以上が受けている手術と言われています。UAEと言われている手術。

これ、お腹や子宮に一切メスは入れない手術なんです。子宮にはとても優しい手術で、まだ出産経験がなく、これからどうしても赤ちゃんが欲しいと望む妻に、先生はこの方法を提案した。お腹や子宮にメスを入れずに子宮筋腫を手術するってどういうことかと思うでしょ? 僕もその方法を聞いて驚きました。
 
まず、足の付け根にある動脈を数ミリ切開して、細い管(カテーテル)を動脈に入れていくわけです。で、その管が動脈を辿って、子宮に近づいていくわけですよ。するとね、子宮近辺に細い管がたどり着く。で、そこから何をするか? 栓をするのです。どういうことか? 
 
子宮筋腫が大きくなるってことは、その筋腫自体が日々栄養を取っていくから大きくなっていくのです。このUAEという手術は、子宮筋腫に栄養を与えず、兵糧攻めにしてやろうというもの。細い管は子宮近くの動脈に進んだら、子宮筋腫に栄養を与えている動脈にゼラチンスポンジ(自然に溶けていくらしい)を注入して、栓をしてしまうのです。すると、この動脈から子宮筋腫に栄養がいかなくなってしまうという仕組み。じゃあ、この栄養がいかなくなった子宮筋腫はどうなるのか? なんと、じょじょに細胞が壊死して小さくなっていくというのです。
 
妻は1年たったら3分の1になると言われたそうです。しかもお腹にも子宮にもメスを入れてないので体への負担は少なく、翌日歩ける。

最高の手術じゃないか! と思いますが、まず保険適用ではないので、自費診療。施設によって異なりますが、40万円ほどかかります。そして、日本にこの手術法が来てから、20年と経ってなく、さきほど「4000人以上が受けている」と書きましたが、医療の歴史からしたら「たった4000人」なので、この手術方法を推奨してない先生もいる。現時点では、賛否両論ある手術法だそうです。
 
妻は先生と何度も話を重ねて、決めたのです。この子宮動脈塞栓術、UAEで子宮筋腫をやっつけてやると決めたのです。
 
そして。妊活休業に入ってから、3日後。手術の日が来ました。


今回の格言
大切な医者と恋人を選ぶのって何か似ている気がする。
「妊活=子作り=セックス」という発想は大間違い。子作りのためには事前の「体のメンテナンス」が大事なんです! そして、心から信頼できる医者との出会いも。こんな「本当に大切なこと」は単行本『ブスの瞳に恋してる』シリーズ(1~4)にも!



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!