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ブスの瞳に恋してる♥ 第130回「妻を誇りに思う日」

イラスト・ヤマザキマリ
イラスト・ヤマザキマリ


息子、笑福が生後6カ月、妻は芸人として仕事に復帰するため、「イッテQ!」のロケで5日間オーストラリアに向かった。

心配しまくるまま旅立った妻。僕は妻のお母さんと一緒に、一つ屋根の下、笑福と向き合うことになるのだが、2日目は母親がいないことを完全に気づき一日ご機嫌が悪かった笑福。

だが、3日目ともなるとその状況を受け入れ、比較的笑顔でいてくれた。なんていい子なんだと誉めまくってみる。

5日間のうち何度か、妻がLINEのテレビ電話機能を使って電話してきた。あれはなんて便利な機能なんだろう。オーストラリアにいる妻と周りに女芸人の皆さんがいて、笑福に呼びかける。スマホの画面に映る母を見て、テンションが上がりまくる笑福。その姿を見て、母親の存在ってすごいんだなと痛感。母親の姿を見てしまったら、LINEの通話を切ったあと、また寂しくなり泣きだすんじゃないかと不安に思う。が、切った後も、母親は今はいないということを理解し、そして再び笑顔。0歳児なりにちょっとずつたくましくなっている姿にウルっときてしまう。

妻はこのロケで芸人として復活するだけに体を張って頑張った。4日目だったろうか、妻からメールが届いた。「お母ちゃん、今から川に投げ込まれてくるよー。おもしろくしてくるからねー」と。まだ笑福を授かる前は、妻からこの手のメールは何度も来たことがある。「今から氷の湖を泳いでくるね」「今、タランチュラを食べてきたよ。白子の味がしておいしかったよ」「これからブルドーザーで引きずられてきます」とか、そんな感じでメールが来るたびに、思わず笑ってしまうし、芸人という仕事はスタントマンに近い仕事だなと思ったし、そんなメールを送ってくる妻の仕事を誇らしいと思ったし、そんなメールを貰える夫の僕もありがたいなと思っていた。そして今回は母親としての初めてのそんなメールだった。僕と息子、笑福に向けている。「お母ちゃん、川に投げ込まれてくるよ」と。

子供を産んで、その子供を日本において、オーストラリアで川に投げ込まれる。笑福にメールを見せたが当然理解することは出来ない。だが笑顔を見せたのはなぜだったのか? 僕はそのメールを見せながら笑福に言った。「笑福の母ちゃんは、すごい仕事してるんだからな。誇りを持とうぜ」と。もしかしたら将来、母親の仕事で学校などでイジメられることもあるかもしれない。

だけど、母親がテレビで鼻水出してもケツ出しても、人を笑わせることは難しくて格好いいのだと、理解して、胸張れる人間に育てていかなければいけない。その教育はすでに始まっているのだ。

4日目、5日目と笑福は本当機嫌よく、暴れることなく、激しい夜泣きをすることもなく、母親のいない5日間を過ごした。

妻がオーストラリアから帰ってきた。部屋の扉を開けて、笑福を見る。笑福は、まだ理解出来てないようだ。そして妻は「笑福、ただいま〜〜〜」と号泣。行きも号泣、帰りも号泣。

生後6カ月にして、母親のいない5日間を過ごした笑福。そして芸人として頑張った妻。

すぐにソファーに座りおっぱいを出して笑福に母乳をあげた。5日ぶりの母乳に飛びつく笑福と、息子に5日ぶりの母乳をあげた妻。母乳をあげるという毎日見慣れている光景が、これだけ幸せな光景に見えたこともない。

それから数週間して、「イッテQ!」が放送になった。果たして笑福はどんなリアクションをするのか? 放送のオンタイムの時は、笑福が眠くなってしまったようで見せることが出来なかった。その翌日、妻は「ヒルナンデス!」という番組に出演のためお出かけ。僕は笑福と二人でお留守番。留守番の間、笑福に昨日放送されたイッテQを見せることにした。

自分の母ちゃんが体を張って、バンジージャンプを飛ぶ姿はどんな風に見えるのか? ちなみにこのロケで妻はずっと飛べなかったバンジージャンプを飛ぶことが出来た。これは家に帰ってきて本気で言ってたことだが、出産を乗り越えたことが理由だと思うと言っていた。初めての出産を迎える前は、その新しい命の誕生に楽しみも大きいが、それ以上に不安もある。人生でそれを超えることはないであろう体験なのだから。それを乗り越えたことが自分の自信になったと。母は強しというが、出産という経験は女性に大きな勇気と強さを与えるのだろう。

で、イッテQで妻が出演する「温泉同好会」が始まった。浴衣を着ている妻。テレビ画面に出ている妻を見て笑福は不思議そうな顔をしている。「あれ?? 母ちゃん、なんでそっちにいるんだろう?」という顔だ。妻が相撲を取りケツを出し、川に投げ込まれる。その姿を見た笑福は…。完全にフリーズしている。「え? どういうこと? なんで母ちゃん、こんなことしてるの?」という顔か。そしてバンジージャンプ。出産を乗り越え、笑福を産んだことで手に入れた勇気で振り絞ったジャンプ。大空に体を投げ出す。そこで笑福は、顔の表情を変えた。笑うかーーーーー!と思ったら。泣いたーーーー!急に泣きだした。号泣だ。

自分の母ちゃんがゴム紐で空に浮いている姿は衝撃的過ぎたようだ。そりゃそうか。

僕の中でこの時点で楽しみが出来た。妻がテレビで体を張る姿を見て、笑福が初めて笑う日はいつだろう。

妻よ、芸人復帰、まずはお疲れさま。そして笑福、いつか母ちゃんで笑おう。


 
今回の気づき
日々、当たり前のことが幸せだと気づけることは素晴らしい。
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鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!