ブスの瞳に恋してる♥ 第148回「コミュニケーションが足りない」
鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第148回「コミュニケーションが足りない」
飴と鞭という言葉がありますが、いい奥さんは飴と鞭の使い方がうまいと思います。うちの妻も僕に対してとても厳しい。妻はかなりの綺麗好き。部屋を汚すということに関してはとても厳しい。「なんで、これが出来ないかな」と、学校で赤点ばかり取ってる生徒のような扱いになる。だけど、僕の仕事などに対しては誉め方が上手で、中途半端に誉めない。誉める時にはキチっと誉める。時には「天才!!」とまで言いきるから、99%怒られてもこの1%で自信が持てる。
この飴と鞭、恋愛だと「ツンデレ」なんて言い方をします。一時の流行語で終わると思ったら定番ワード入りしているこの言葉。みんなといる時には高飛車で自分にも冷たいのに、二人になると甘えてきたりするツンデレもあれば、付き合っていて基本なんだか冷めている、沸点が低いのに、時折、自分から抱きしめてきたりするツンデレ。ツンデレは相手に「油断させない」という恋愛だと僕は思う。人間はすぐに油断する。特に男は。付き合う前は本気で追いかけていたくせに、付き合うと決まると油断する。「俺のものになった」途端にその努力をしなくなり、浮気に走ったりする。だからこそツンデレ彼女は、男心をよくわかっている女性なのだと思う。このツンデレは親と子供にも当てはまることなのだと思った。
最近、僕は舞台の演出やら、来年から始まるドラマの脚本やらで結構忙しい日々が続いている。朝もなかなか起きられず、息子、笑福を保育園に連れていく妻にベッドに入りながら「よろしく」と言うのが精一杯な日々が続いていた。
父勉と称して1年間仕事をかなり休んでいた時に比べたら、息子・笑福とかかわる時間は明らかに減っている。が、その中でも自分なりに時間を見つけては向き合っているつもりだった。だが、その数日は本当に疲れていた。
笑福は朝7時には起き、保育園に行くのは9時過ぎ。7~9時の間に、寝ている僕にタックルしてたたき起こす。1歳5カ月。まだ会話は出来ないが、彼なりの言葉で何かを訴える。遊んでくれと言っているのだ。体力のある日は半分起きながらも遊んだりジャレたりしていたのだが、まあ、その数日は疲れて何も出来なかった。寝ている僕のところに笑福が入ってタックルしてもリアクションもしてあげられなかった。
そうしたら、である。ある朝、笑福が部屋に入ってこなかった。入ってきてタックルされてもその体力はなかったのだが、入ってこないと寂しくもある。なんだろうと思ってリビングに行くと、保育園に行く準備をしている笑福。妻が「お父ちゃん、来たよ~」と言うが、笑福はこっちを向いてくれない。全然笑顔を見せてくれない。妻が「車を出すので、笑福を連れてきてほしい」と言ったので、笑福を抱く。抱くことを拒否はしないが、明らかに体をかなり無理な体勢でひねり、僕を見ないのだ。何度も話しかけて、変顔をするが、何もリアクションしない、手にしたトーマスのおもちゃをずっといじっている。この時点での僕はトーマスのおもちゃに100対0で負けている。
車まで笑福を連れていき、妻が「はい、お父ちゃんに挨拶しな」と言っても全然手を振ってくれることもない。とにかくツンとしている。話しかけてもツン、抱いてもツン、車に乗せてもツン。最後までツン。ツンツン攻撃の息子。たまらず妻に言ってしまった「なんか、笑福が今日、ツレないなぁ」と。逆にスネたくなってしまった。妻は「まあ、そんな日もあるでしょ」と言うが、なんか寂しい。いやすごく寂しい。その日は結局夜中まで帰れず。ずっと笑福のツンが気になったまま寝る。
翌朝。朝、扉が開き、走ってくる音。笑福が走ってきて僕にタックル。昨日のツンは一日で終わり、笑顔でぶつかってくる。僕は疲れていたが、笑顔を取り戻してくれた笑福のことが嬉しくて嬉しくて疲れた体を起こして、遊ぶ、ジャレる。が、僕も44歳。朝方までドラマの本を書いていたので、体力という電池がキレて、10分ほど遊んだが、寝てしまった。起きるとまだ笑福は保育園に行ってない。電池切れした僕に、またもやツン攻撃が始まると思ったが、ずっと笑顔。その日は妻の車に送っていくまでずっと笑顔で、車が発進する時までずっと僕の方を見て名残惜しそうにしていて。なんてかわいいやつなんだ。昨日のツンがあったからこそ、その笑顔がとても光り輝く。まさにツンデレ王子。
お休みしていた時には、ずっと笑福といることが出来たけど、僕が完全仕事復帰してからはその面積は減っている。笑福は言いたかったのだと思う。「たとえ時間がなかったとしても、ちょっとはコミュニケーション取ろうぜ! 俺たち父と子じゃねえかよ!」と。コミュニケーションは時間だけの問題じゃない。その瞬間の愛情量の問題だと思う。たった数分でも、十分の愛情をかけて取れるコミュニケーションもある。忙しさにかまけて、それすら捨ててしまおうとした僕に、息子笑福はツンデレ王子となって教えてくれたのだ。なんて厳しい1歳半。妻と似ているのかもしれない。