マガジンワールド

「ブス恋♥偉大なパワームーン。」 Vol.176

鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第176回「偉大なパワームーン。」

 
Hanako 1152号:ブスの瞳に恋してる
[ヤマザキマリの場合]
やまざき・まり/漫画家。イタリア在住。『テルマエ・ロマエ』は世界8カ国で翻訳。


任天堂スイッチのスーパーマリオオデッセイのおかげで僕と2歳9ヶ月の息子、笑福との友情はかなり熱くなりました。

僕がマリオをやってると笑福は横で見て、やった気になる。そして、そのあと、YouTube動画でヒカキン&セイキンの攻略動画を見て、再び興奮。

ゲームの中で、パワームーンという月の形をしたものをゲットしていくのですが、僕がパワームーンを取ると、笑福は横で「やった―――」と喜んでくれます。

マリオのおかげで、父と子というよりも、友達関係のようになっていて、それがとても楽しい。

が、ふとしたことで、子供の機嫌は一気に崩れる。

お世話になっている方Aさんに誘われて、妻と僕と笑福、3人で食事に。とてもおいしい中華。笑福は食べながらお店の中を走り走り走り回る。僕が追いかけるとさらに興奮。

笑福の体をつかんで、持ち上げる。いつもは大喜びのこの行動ですが、笑福の顔が曇りました。そして、顔から笑顔が逃げていき、一気に泣き顔に。そして右手をおさえて「いたい、いたいよー」と泣き出す。妻の方に走って抱きつく。

すると、妻は抱っこする。そっから1時間近く、右手をおさえて「いたい、いたいよー」と泣いている。だけど、妻が話しかけると、泣きやみ。

妻が僕やAさんと会話をすると、寂しさを訴えるかのように「いたい、いたいよー」と痛みを訴えてくる。

正直、痛そうには見えず。まるで当たり屋のように「いたい、いたいよー」と訴える。訴えながら僕の顔をチラっと見る。そして「とうとのせいで、いたいー」と言うのです。

完全に気まずい状態です。妻も、僕が無理に笑福を持ち上げようとしなければ、笑福の機嫌は崩れなかったのに的空気。僕のせいです。家に帰り、まだご機嫌斜め。手をおさえて「いたい、いたい」と言っている。

少しでも笑福の機嫌をよくさせようと、スマホで動画を再生。セイキンのマリオオデッセイ攻略動画。笑福は泣くのも忘れて、動画を見る。

そして、マリオがパワームーンをゲットすると、笑福はそれを見て「いたいのが治ったー」と言ったのです。それを聞いて、思わず叫びそうになりましたよ。「痛くなかったのかよー」と。

そんで、その数日後。妻が笑福と二人で笑福の靴を買いに行きました。笑福は2歳9ヶ月にして、靴のサイズが17・5センチ。でかいです。

デパートで靴を買っているときに、笑福は一人で走り回ったり、どっかに行こうとしたり。

たまにデパートで迷子になる子がいますが、放っておいたら迷子になりそうな勢いだったとか。あまりにも言うことを聞かないので、妻が笑福の手を持って引っ張ったそうです。すると、笑福が手を持って「いたい、いたいよー」と号泣。

その場で泣き崩れながら手の痛さをアピール。当たり屋登場です。

妻は笑福を駐車場の自分の車に連れていったそうです。それでも泣きやまない笑福。「いたい」と言い続ける。すると、妻は笑福に説明を始めたそうです。

「手を引っ張ったことはもうしわけない。だけど、あそこで引っ張らないと笑福がどっかに行っちゃうでしょ? そしたら誰かに連れていかれちゃうかもしれないでしょ」とちゃんと説明。だけど泣きやまない笑福。

妻もなんだか悲しさがあふれてきて、泣く笑福の前で、号泣してしまったそうです。号泣には号泣返しです。妻が泣き出すと、笑福はキョトンとして泣くのをやめたとか。すごいもんです。

家に帰ってきても、笑福はまだ手の痛みを訴える。そこで、セイキンの動画を見る。マリオ攻略動画です。そしてパワームーンをゲットすると、またもや「いたいのが治った――」と。

僕が家に帰ってくると、妻は、この日あったことを僕に話し、そして「パワームーンってすごいね」と。そんなことをブログに書いていたら。なんと、子供の腕はとても外れやすいのだとのご指摘が。ふとしたことで外れて。もちろん、すぐに戻ることもあると。だから強く引っ張ったりするのは危ないのだと。妻も同じ話を人から聞いたらしく。

痛がったところから嘘だと思っていたけど、たぶん、僕が体を持ち上げたり、妻が手を引っ張ったときには強い痛みがあったのは事実で。そのあと、どこかで治ったのだけれど。子供には「痛みが治ったのだ!」という精神的スイッチが必要で、それがパワームーンだったのだ。

そうか。だから子供の手を取るときには気をつけなきゃいけないのだなという気づきと、そして改めてパワームーンに感謝した。

大人にも仕事でイヤなことがあったときに力をくれるパワームーンがあったらいいのになと、思ったり。


【今回の気づき】

子供には精神的スイッチがとても大事



鈴木おさむ
すずき・おさむ/放送作家。妻・大島美幸(森三中)との子育てもまる3年。長らくご愛読ありがとうございました。連載をまとめた『ママにはなれないパパ』が、絶賛発売中です!


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