「ブス恋♥仕事より子供。」 Vol.180
鈴木おさむエッセイ ブスの瞳に恋してる♥ 第180回「仕事より子供。」
僕が「これは買ってないよ」と言うと、息子は笑い出します。いや、ドキドキしましたよ。僕は地毛ですけどね、もし、外で誰かに同じことをしたらと思うと。もしその人が地毛じゃなかったらと思うと、多分、その瞬間は地獄のような気まずさになりますよね。笑福に「絶対、他の人にやっちゃダメだよ」とは言うのですが、どこまで理解しているのやら。妻は横で笑っている。
まあ、そんな日常も幸せの1シーンなんですけどね。やはり、息子、笑福は僕と妻と3人で一緒にいるときにすごく喜んでいます。今年のお花見に行ったときも、真ん中で僕と妻の手を持って歩く。昔のドリカムのジャケットのような感じですよ。僕と妻の手を自分の顔に当てる。そして「楽しいねー」と言う。その顔がまた嬉しいです。
その日はかなり無理して時間を作って昼にお花見に行ったんですが。眠気も疲れも飛びますよね。
子供というのはやはり正直です。僕が忙しいことを理由に笑福といる時間が少なくなると、笑福は僕に冷たくなっていきます。ですが、時間を作って二人だけで遊びに行く時間を増やすと、まず、目が違う。顔が違う。態度が違う。
恋愛だってそうだから、親子だったらなおさら。時間と愛情は比例するよなと分かっていながらも、やはり体験しないと100%理解は出来ないものです。
で、育児と働くこと。あらためて最近考えます。妻は笑福を生んで、半年で仕事復帰しました。それは妻が望んだというよりも、僕が望んだことです。妊活休業というゴールが分からない中で、それを理解してくれたテレビ番組スタッフが妻を休ませてくれた。そして森三中のメンバーもいる。そしてそのとき、僕は放送作家業をほぼ休むことが出来たので、とにかく妻を早く仕事に戻したいと思ってました。半年で復帰しましたが、基本は、毎週月曜日のヒルナンデスと二週に一度の番組収録くらい。しばらくは本当にゆっくりなペースで仕事をしていました。ですが、2歳を超えたあたりから、ちょいちょいレギュラー以外の仕事を増やし始めました。
なので、二週に一度くらいは妻と仕事のスケジュールの話をします。「○日は笑福を迎えに行けるかな?」とか「×日に□□の仕事のオファーが来てるんだけど」とか、話になり、僕が迎えに行けるときは「その日、行けるわ」とか、誰か知り合いに頼めるときは頼んだり。無理しない感じで仕事を入れるようになっています。
ただ、先日、妻から「○日に△△のオファーが来たんだけど、笑福を迎えに行けるかな」とLINEが来ました。その仕事は僕から見ても今の妻の仕事にすごくあってる仕事だし、是非やってほしい仕事でした。だけど、僕の仕事がどうしても調整つかず「ごめん、その日、行けないんだ」と妻は「OKでーす。じゃあ断りまーす」と返ってきました。もう一度「ごめん」と返すと「いいんだよー」と明るく返ってきます。
申し訳ない気持ちになる。絶対いい仕事だけど、やはり育児がある。当たり前かもしれないが、妻は仕事よりも育児を優先させる。
妻のあの明るいLINEの返信は僕への気遣いなのか? それとも、そんな気遣いなどまったくないのか?
ある夜、家に帰る。お風呂から妻と笑福の楽しそうな声が聞こえる。お風呂を覗くと湯船に入った母と息子。笑福は妻の膝にまたがり、妻は「足が上昇します」と言って笑福を乗せた右足は上がっていき、あるところで一気に下がる。笑福は爆笑する。とても楽しそう。この数日間で生まれた新たな遊びらしい。その姿を見て。母と息子の関係は日々変化し、より強いものになっている。
話はちょっと変わるが。ある女性のメイクさん。シングルマザーで子供2人を育てている。僕の目の前で仕事の話が来る。急な仕事のオファーらしい。いろいろ考えながら「すいません。お断りさせてください」と電話しながら頭を深く下げている。仕事を引き受けたいが、子供の予定と照らし合わせて泣く泣く断っている。メイクさんの仕事もフリーなので、仕事のオファーがあるだけでありがたいことは分かっている。その中でシーソーにかけて断る。
妻が仕事を断るときにどんな思いなのかは聞いてはいないが。諦めることで手に入れる目の前の幸せがあり、諦めるからこそ、その目の前の幸せが何倍にも感じているのかなと、思ったりもした。
僕自身も日々仕事に追われている毎日。油断すると笑福との時間は少なくなってしまう。「子供はあっという間に大きくなるよ」と、聞き飽きるほど言われた言葉だが、その言葉が、自分の心の真ん中にゆっくりと来ている。仕事で諦めることも大事だと、自分に言い聞かせる、最近である。