マガジンワールド

FOOD NEWS vol.19 平野紗季子のMY STANDARD GOURMET 『豊前房』の冷やしキムチうどん。

FOOD NEWS
  • RESTAURANT _ 犬養裕美子
  • GIFT _ 真野知子
  • SWEETS _ chico
  • NEW STANDARD _ 平野紗季子
vol.19
平野紗季子のMY STANDARD GOURMET
『豊前房』の冷やしキムチうどん
「冷やしキムチうどん」¥1,080。ちなみに、豊前房の定番、あたたかな「豊前房うどん」は、いりこと昆布のおだしに、ごぼ天、おぼろ。 優しくて深い味がじーんと沁みるタイプのうどんです。か弱い日なら涙が落ちてもおかしくない。
「冷やしキムチうどん」¥1,080。ちなみに、豊前房の定番、あたたかな「豊前房うどん」は、いりこと昆布のおだしに、ごぼ天、おぼろ。
優しくて深い味がじーんと沁みるタイプのうどんです。か弱い日なら涙が落ちてもおかしくない。
 
どうしようもなく疲れた日にうどんを食べるのはとても素直な選択だし、それが中目黒の豊前房なら大正解だと思います。
 
近頃の信じられないくらいの暑さには、「冷やしキムチうどん」が心強いです。ひやひやのおだしは、しゃっきりとカツオと昆布が効いたこはく色。その水面に千鳥酢とごま油をちゅんと足せば、香りは特別華やかに。つゆの中では、つるんむっちりのおうどんが、気持ち良さそうに泳いでいます。それからどっさり白髪葱、やる気あふれるキムチの赤が、おろそかな食欲に元気ですかと訴えます。ひとおもいにずずっとやれば、濁った気持ちもすうーっと透き通ってしまう。うどん界の冷麺おそるべし、です。
 
うどんの仲間たちもみんながみんな優秀で、ふるふるのだし巻き卵に、今日の炊き込みごはん、かっちゃんのとろける杏仁どうふ(行けば誰だかわかります)…って、つい長居してあれもこれもの食卓に。食べたらはやく帰ってくれの店じゃない、もっとそれ以上のいい時間を持ち帰らせてくれる場所。だから店主の佐藤さんは「うどん屋というか、ごはん屋さんかな」って言うんだろうなあ。お客さんの年齢層は0〜80歳だとか。うどんはいつだって、最後まで優しい食べものです。
ひらの・さきこ 1991年生まれ。食ブロガー。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)
 
豊前房(ぶせんぼう)豊前房(ぶせんぼう)
東京都目黒区東山1-11-15  
☎03・3710・5425
11:45~14:30LO、18:00~23:00LO(8月は22:00LO) 
月曜、第4日曜休 
どの駅からも遠い、中目黒の端っこで、帰り道の目黒川は、やけにすがすがしい。


写真・清水奈緒 文・平野紗季子